「インパクトファクター」とは、学術雑誌の影響力を示す指標の1つです。 今回はインパクトファクターの意味や計算方法、調べ方から注意点まで具体的に解説します。インパクトファクター(IF)とは?「インパクトファクター」とは、学術雑誌(ジャーナル)がその分野内でもつ影響度(=インパクト)を計測する指標の1つです。英語で「Impact Factor」と表記され、その略で「IF」とよばれることもあります。インパクトファクターは、学術雑誌が他の雑誌に引用された頻度から算出される数値です。あくまでもその学術雑誌自体の影響度を示す目安で、掲載されている論文や研究業績、研究者などの評価をする指標ではないので注意しましょう。また、極めて多く引用された論文や、時事的な研究テーマに関した論文があるとインパクトファクターは高くなりやすく、学術雑誌の影響度との関連が低い場合もあります。またインパクトファクターの目安の値は研究分野によって大きく異なるので、1つの分野で調べて比較することが重要です。インパクトファクターは、JCRもしくはWeb of Scienceから調べられます。調べ方の詳細は後述します。インパクトファクター(IF)の意義についてインパクトファクターが高いと、それだけ多く引用された論文であることを意味するため、より多くの人に自分の論文が読まれる可能性が上がります。よって、研究者としては名誉であるといえるでしょう。また、インパクトファクターが高い=影響力の大きい学術雑誌に論文が掲載されることで、研究者としての評価が上がり、研究資金の増加も期待できます。加えて、論文を投稿する際に、どの学術雑誌に投稿するか迷った際にも有用です。インパクトファクターを比較して、なるべく数値が高い学術雑誌を選ぶこともできるので、学術雑誌を選ぶ指標になります。インパクトファクター(IF)以外の評価指標について学術雑誌の影響度を測る指標としては、インパクトファクターのほかにもいくつか評価指標があります。一例として、3つの評価指標を紹介します。▶5 Year Impact Factor(5年インパクトファクター)インパクトファクターは、調べたい対象年の直前2年間のデータから算出されます。その期間をもっと長くし、対象年の前5年間分のデータから算出されるのが「5 Year Impact Factor(5年インパクトファクター)」です。▶Immediacy Index(最新文献指数)「Immediacy Index(最新文献指数)」は、ある特定の学術雑誌が、ある特定の発行年度内に引用された数を示す指標です。生成AIなど最先端分野の学術雑誌の比較に適しています。▶EigenFactor(アイゲンファクター)「EigenFactor(アイゲンファクター)」とは、引用回数の合計が多い学術雑誌からの引用を、少ない学術雑誌からの引用に対して大きい値になるように重み付けした指標です。インパクトファクターの特性上、掲載論文数が少ない学術雑誌ではどうしてもインパクトファクターが高くなりがちです。その欠点を補うのがこのアイゲンファクターです。インパクトファクター(IF)の計算方法インパクトファクターの計算式はシンプルです。調べたい学術雑誌の、引用された回数 ÷ 公開論文数で求められます。重要なのは、どの年のデータで計算するかです。引用された回数は、調べたい対象年の前2年間に掲載された論文が、対象年に引用された回数です。公開論文数は、対象年の前2年間に公開された論文数です。例えば2024年のインパクトファクターを計算したければ、・2024年に引用された回数(=対象年)・2022年と2023年の2年間の公開論文数(=対象年の前2年)で計算するので、下記のようになります。例えば、ある学術雑誌において、・2024年に引用された回数が合計1,000回・2022年と2023年の2年間に公開された論文数が合計500本だとすれば、上記の式に当てはめると、1,000÷500=2となり、2024年のインパクトファクターは「2」であるとわかります。この計算で出されたインパクトファクターが高いほど、その学術雑誌には他の雑誌に何度も引用された論文が載っていることがわかります。よって、より多くの人に読まれる、影響力のある学術雑誌だといえるでしょう。ちなみに、インパクトファクターの計算で使用する被引用数や論文数のデータは、必ず「Web of Science」のデータを使用します。Web of Scienceとは、「Clarivate Analytics(クラリベイト・アナリティクス)」社が提供している学術文献のオンラインデータベースです。クラリベイト・アナリティクス社は他に「JCR(Journal Citation Reports)」という学術雑誌の評価分析データベースも出しており、JCRからもインパクトファクターを調べることができます。JCRやWeb of Scienceでの詳しい調べ方は、あとの章で解説します。インパクトファクターの目安インパクトファクターには、明確な数値の目安はありません。インパクトファクターは研究分野によって大きく異なり、さまざまな条件で上がることもあります。よって一概に比較できないので、「インパクトファクターの数値がいくつだから基準より上の学術雑誌である」とは言い切れません。よって、確実な目安の数値はありませんが、だいたいインパクトファクターが1~2であることが多く、5以上だと高いといわれることもあるようです。さらに上の10以上になると、何かしら新規性のある内容を含むことが多く、高評価されやすいです。10以上であれば、評価や信頼性はかなり高いといえるでしょう。ただしこれらの数値もあくまでも目安に過ぎません。研究分野によって上記の数値の目安がまったく異なることもあるので、注意してください。インパクトファクター(IF)の調べ方論文投稿の候補の学術雑誌を見つけたら、さっそくインパクトファクターを調べてみましょう。インパクトファクターを調べる際は、前述のJCRの有料会員用サイトから、JCRもしくはWeb of Scienceで調べるのが一般的です。JCRは大学ですでに有料会員になっていることが多いので、インパクトファクターを調べたい旨を自分の大学の図書館に問い合わせてみましょう。インパクトファクターの調べ方は主に下記の3パターンがあります。JCRからの調べ方JCRはWeb of Scienceよりも詳しいインパクトファクターを調べられます。特定の学術雑誌が決まっている場合は、JCRのトップページの「Go to Journal Profile 」の検索窓に調べたい学術雑誌名を入力します。具体的に学術雑誌は決まっていないけれど分野だけ決まっているなら、「Select Categories」をクリックして、表示されるプルダウンから見たい分野を選びます。Web of Scienceからの調べ方JCRの有料会員になると、JCRだけではなくWeb of Scienceからもインパクトファクターを調べることができます。「Web of Science Core Collection」は、膨大な学術雑誌の論文や会議録などが含まれる引用データベースです。Web of Science Core Collectionから調べたい学術雑誌に掲載されている論文を検索し、表示された論文の下にある「ジャーナル情報を表示」をクリックすると、インパクトファクターが表示されます。学術雑誌の公式サイト学術雑誌によっては、公式のWebサイトでインパクトファクターを公開していることもあります。「学術雑誌名 impact factor」でインターネット検索してみましょう。学術雑誌の公式Webサイトでインパクトファクターを確認できれば、JCRの有料会員用サイトを見にいく必要はありません。ただし学術雑誌の公式Webサイトだと最新の情報に更新されていなかったり、そもそもインパクトファクター自体を公開していなかったりすることがあるので、その際はJCRかWeb of Scienceで確認しましょう。インパクトファクター(IF)の注意点学術雑誌の影響度を測るのに便利なインパクトファクターですが、注意点もあります。インパクトファクターで注意すべき点をいくつか解説します。あくまでも学術雑誌の「影響力」の指標である前述のとおり、インパクトファクターはあくまでも学術雑誌の「影響力」の指標です。その学術雑誌が、研究分野のなかでどれくらい影響力があるかを示しています。学術雑誌に掲載されている論文や、研究者の評価ではないことに注意しましょう。インパクトファクターが高い=必ずしも質の高い学術雑誌ではないインパクトファクターが高いからといって、必ずしもその学術雑誌の質が高いとはいえません。なぜならインパクトファクターは、他の学術雑誌からの引用回数が多いだけで上がりやすくなるからです。加えて、トレンドの話題に関する論文でも上がりやすくなるので、論文の質が決して高くなくとも、インパクトファクターが上がる可能性があることに注意してください。論文数が少ない学術雑誌は、複数年分のインパクトファクターを確認する小規模な学術雑誌のインパクトファクターにも注意が必要です。そもそもの掲載論文数が少ない学術雑誌だと、偶発的にインパクトファクターが跳ね上がる可能性があります。例えば、少ない掲載論文のうちの特定の1つの論文だけ極端に何度も引用されると、その学術雑誌のインパクトファクターは一気に上がります。よって、たまたまインパクトファクターが大きく上がった年の分だけ確認すると、他の年と大きく差が出てしまい参考にならないこともあります。小規模な学術雑誌のインパクトファクターを調べるときは、単年だけではなく複数年のインパクトファクターを確認しましょう。異なる分野間での比較には使えないインパクトファクターは研究分野によって目安が大幅に異なります。例えば化学と医学、生物のそれぞれのインパクトファクターの目安はまったく違います。これは、分野ごとに研究人口数や論文の引用動向などが異なるからです。異なる分野間でインパクトファクターを比較しても意味がないので、必ず同分野で比べましょう。インパクトファクターを参考に適切な学術雑誌の選定をインパクトファクターの意味を理解しうまく使えば、論文投稿する学術雑誌をより選びやすくなります。あくまでも指標の1つである点に留意しつつ、ぜひ学術雑誌選定の参考にしてください。ちなみに研究内容の発表には、論文投稿の他に学会発表もあります。学会の運用なら「らくらくカンファレンス」がおすすめです。各発表の場で意見交換や質疑応答が円滑に行える機能があり、より充実した発表の場になるようサポートします。他にも各登録機能や決済、オンデマンド配信など、すべて1つのシステムで対応できます。詳しくはこちら▼らくらくカンファレンス|登録から会期後まで、ワンストップでサポートする学会運営システム