学会で発表をする際、事前に提出するのが「抄録(しょうろく)」です。参加者は抄録で発表内容を事前確認するので、学会発表において非常に大切なものです。しかし、実際に抄録に何を書けばよいのか悩むことも多いですよね。初めての学会発表ならなおさらです。今回はそのような方々のために、学会の抄録の書き方をわかりやすく解説します。学会の抄録とは?学会の抄録とは、学会の発表内容の要約です。「要旨(ようし)」とよばれることもあります。抄録には、研究の目的や手段、考察などが記載されています。1枚の書類やデータにまとめられており、これだけで発表内容の概要がすべて確認できるようになっています(複数枚になる抄録もあり)。学会ごとにフォーマットが決まっていることもあれば、テキストをフォーム入力して送信することもあり、形式は学会によってさまざま。PDFで抄録を作成し、抄録内に図版やグラフを挿入することもあるようです。抄録の使用目的は、参加者や他の発表者が、研究の目的や発表内容を把握することです。オフライン開催の場合、提出された抄録は要旨集にまとめられて事前に参加者に配布されたり、プログラム一覧に掲載されたりします。オンライン上でプログラムやタイムテーブルの一覧から抄録を見られるようになっており、参加者はここを読んで発表を聞くか判断します。そのため抄録は、読んだだけで発表内容のイメージがつき、「これはぜひ発表で具体的に聞いてみたい」「直接質問をしてみたい」と参加者に思わせることが重要です。参加者の興味をひき、内容がわかりやすくまとめられている抄録を書くためにはどうすればよいのでしょうか?具体的な抄録の書き方を次に解説します。学会の抄録の書き方わかりやすい学会の抄録はどのように書けばよいのでしょうか。抄録は自由に書くのではなく、決まった構成どおりに書いていくことで、筋の通ったわかりやすい内容にできます。構成は、大きく分けて下記の6つの項目に分かれています。上記の①~⑥の順に書くことで、「なぜその方法なのか」「なぜそのような結果になったのか」など流れが明確な状態で読み進められるので、一貫性をもった抄録になります。そうなると読み手にも内容が伝わりやすくなります。ポイントは、6つの項目ごとにしかるべき内容を明確に分けて書くことです。例えば①の背景と②の目的の内容が似通っていたり、冒頭に④の結果がきたりしてしまうと、読み手は混乱して内容が頭に入りづらくなってしまいます。この6項目で書くべき内容を、それぞれ具体的に解説します。背景まず「背景」です。背景は、今回発表する研究や論文を執筆するまでに至ったきっかけを記します。ポイントは、この研究をする意義をアピールすることです。今まで解明されていなかったことは何か、なぜ今この研究をする必要があるのかなど、研究する意義を簡潔に記載します。目的抄録の「目的」とは、言い換えれば今回の研究のゴールです。背景を踏まえ、今回の研究で何を明らかにしたいのかという、たどり着くべきゴールを書きます。ゴールの新規性(まだ誰も着手していない点)について記すと、「なぜ今回この研究に着手したのか」という説得力が増します。なお、目的は1つの発表に対して1つだけ書きます。目的が何個もあると、発表の方向性がぶれてしまうので避けましょう。方法目的を達成するために実際に行った「方法」を書きます。この項目が抄録のなかでもっともボリュームが出ることが多いです。ここでは、実験や研究のなかで実際に使用したソフトウェアや機器、さらに分析対象のデータはどのように取得したのかなどを具体的に順序立てて説明します。特殊な機器やソフトウェアを使用している場合は、その簡単な説明も記載すると親切です。特殊な解析や統計学的な解析を行っている場合は、使用したソフトウェアと手法も明記しましょう。これらを明記することで、目的を達成するために妥当な方法を行ったかを読み手に伝えるのがポイントです。またここでは結果や考察に書くべき内容が混ざりがちです。結果に関してはのちに「結果」の項目で記すので、ここではあくまでも「方法」の説明のみにフォーカスします。結果続いて「結果」です。すでに述べた目的に対して前述の方法で研究を行い、どのような結果になったかをわかりやすく書きます。大切なのは、定量データや数値、客観的な指標など、誰が見てもわかりやすい基準で結果を説明することです。私見などは入れずに、あくまでも端的に客観的事実だけを端的に書きます。図表などを入れてもOKなら、入れることで客観的データがよりわかりやすくなるのでおすすめです。書く順序は、最初に研究全体としての総括的な結果を、続いて各実験それぞれの細かい結果を続けると読みやすくなります。考察その結果を踏まえて、考えられること、明らかになったこと、新たにわかったことなどを「考察」として書きます。この項目は結果と混同しがちなので気をつけましょう。ここでは、最初に設定した目的を思い出し、目的に対して結果的にどうなったのかを書きましょう。目的は予定通り達成できたのか、それとも目的とはまったく違う想定外の結果になったのかがポイントです。結果がどのような場合に適用できるのか、結果を踏まえて次に検討すべき課題や目的は何かも記載しましょう。結語いよいよ最後の項目です。結語では、今まで書いてきた①~⑤の一連の項目の要約を書きます。今回の研究で得られた新たな知見や発見があれば、まとめとしてここでも触れておきます。学会によっては、結語と考察が一緒にまとまっていることもあるようです。学会の抄録の書き方の注意点続いて抄録を書く際の注意点を解説します。これらのポイントをおさえて、誰が見ても理解しやすい抄録を書きましょう。文字数制限に気を付ける抄録には、学会ごとに文字数制限があることがほとんどです。文字数をオーバーすると、要旨集やプログラム、タイムテーブルなどのデータに載るときに文章が途中で切れてしまうことがあります。文字数内に収めるためにも、冗長表現(まわりくどい表現)や内容の重複などは極力なくして、簡潔な文章を心がけましょう。「である」調にする抄録は論文と同じで、基本的に「である」調で統一します。「ですます」調は丁寧な印象になりますが、抄録ではほとんど使いません。また体言止めも避けましょう。体言止めが多いと、文章間のつながりがわかりづらくなります。悪い例:「本研究では、○○の患者の特徴を明らかにすることが目的。」↓良い例:「本研究では、○○の患者の特徴を明らかにすることが目的である。」引用方法に注意他の文献から引用する部分があれば、引用箇所は「」で記します。また参考文献の基本情報も最後に記載しましょう。記載する基本情報は、書籍の場合は、著者:書名、出版社名、出版年月、ページ数が基本です。論文を引用した場合は、著者:論題、掲載誌名、巻(号)数、出版年月、ページ数を書きます。Webサイトから情報を得たのなら、著者:Webページのタイトル、Webサイトの名前、URL、Webサイトの更新日時、閲覧日時です。これらの文献情報の書き方は学会によって異なることがあるので、適宜調整してください。また、参考文献の出版やWebサイトが公開された時期が古いと、そのあと新しい発見などがあり内容がすでに変わっていることもあります。参考文献の出版年月は必ず記載しておきましょう。私見を入れない私見をできるだけ入れないことも大切です。抄録はあくまでも事実に基づいた客観的な視点から書くもの。そうすることで誰が見ても内容が理解しやすくなります。「個人的にはこう思う」「私個人の経験上はこうだったはず」といった私見もつい書きたくなってしまうかもしれませんが、抄録では誰が見てもわかる内容を書くことを常に意識しましょう。必要であれば謝辞を入れる研究に際して助言や支援をしてくれた後援者がいれば、抄録の最後に「謝辞」欄を設けて名前を記載しましょう。具体的には、研究に必要なデータや資金を提供してくれた人・企業、もしくは研究施設を提供してくれた人や企業などです。著者・共著者の名前の記載順に気を付ける研究をした人や論文の著者が1人だけではなく複数人いる場合は、名前の記載順に注意して記載します。順番としては、①今回の研究の主導者②その補佐的役割の人③研究の指導者や監督者のように記載します。①は筆頭著者やファーストオーサーとも呼ばれます。研究の責任者になるので、最初にこの立場の人の名前を書きます。②が何人かいるときは、研究への貢献度の高い順に書くことが多いです。最後の③は、ラストオーサーと呼ばれます。ここには今回の研究の監督者や指導教授など、もっとも地位の高い人がくることが多いようです。ただしこれは日本の学会の場合で、海外の学会では記載順が違うことがあるので気をつけましょう。また記載できる人数が限られていることもあるので、何人まで書けるのかは事前に確認する必要があります。抄録登録や検索ができる学会システム「らくらくカンファレンス」抄録をわかりやすく書くと、参加者の興味をひくのはもちろん、当日発表する際に自分も順序立てて話しやすくなります。今回ご紹介した項目の流れやポイントを、ぜひ抄録作成にお役立てください。なお、「らくらくカンファレンス」を使えば、抄録の登録が簡単にできます。学会当日には、らくらくカンファレンス上に発表のタイムテーブルが表示され、抄録も閲覧可能です。さらに興味があるキーワードから抄録検索もできるので、自分が気になる発表を探しやすくなります。学会を開催予定の方は、ぜひらくらくカンファレンスもチェックしてみてください。詳しくはこちら▼らくらくカンファレンス|現役研究者が監修!学会を支えるワンストップシステム