新技術の開発や新事業の創出のため、近年注目されているのが「産学連携(産学官連携)」です。経済産業省と文部科学省によってビジネスの1つとして推進されている産学連携は、教育や研究分野、新技術のさらなる発展や、社会の発展のための重要な取り組みです。また、近年、連携から発展させて新しい価値の創出につなげる「産学協創」と表現されることも増えてきました。今回は「産学連携(産学官連携)」のメリットや種類、産学協創との違いなどを解説します。産学連携(産学官連携)とは?「産学連携(さんがくれんけい)」とは、大学や高等専門学校などの研究・教育期間と、民間企業が連携することです。「産」は「産業界(民間企業)」、「学」は「大学など」を指します。そこに政府や地方公共団体を意味する「官」をプラスして、「産学官連携(さんがくかんれんけい)」とよぶこともあります。産学連携の目的は、新しい技術の研究開発や、新事業の創出です。大学や研究機関は、自分たちで培った貴重な研究成果やノウハウ、知識、技術などをもっています。それらのノウハウや技術を民間企業が活用し事業化することで、新事業につながります。2016年11月には、経済産業省と文部科学省が「産学官連携による共同研究強化のためのガイドライン」を策定し、産学連携の構築を推奨しました。参照:産学官連携による共同研究強化のためのガイドライン/経済産業省産学連携(産学官連携)の意義産学連携(産学官連携)のそれぞれの漢字の意味は、前述のとおり、・「産」→ビジネス(もしくはプライベート)セクター。民間企業やNPOなど・「学」→大学や高等専門学校などのアカデミックセクター・「官」→公的資金で運営される政府系試験研究機関。国立試験研究機関などです。「産」は新規ビジネスを創出することで経済活動を発展させ、「学」は優れた人材の育成や将来に向けた貴重な知的財産を生み出し、「官」は政策目的の達成のため、国の発展に寄与する技術の研究開発を行うという、それぞれの役割があります。特に大学や研究機関にとっては、企業側の目的や社会的ニーズという新しい視点が加わることで、より社会に貢献できる新しいコンセプトやシーズが生まれやすくなります。自分たちの研究成果が社会貢献につながり、そこからまた新しいシーズにつながることは、教育や研究の面からも大きな意義があります。参照:1.産学官連携の意義~「知」の時代における大学等と社会の発展のための産学官連携/文部科学省産学連携(産学官連携)のメリットまず大学や研究機関側のメリットは、企業と連携して研究開発を進めることで、自分たちの研究がビジネス化するチャンスを得られることです。ビジネス視点を得て、第三者の要望や意見などにも触れることで、より社会が求める研究技術に近いアイデアが浮かぶかもしれません。さらに、企業や公的機関から研究費を調達できる、コスト面での利点もあります。一方で企業側のメリットは、大学や研究機関の研究者など、その研究分野のスペシャリストをビジネスパートナーにできる点です。新技術や新商品の開発は、自社内だけで行うには優秀な人材を探さなければならず難度が高いもの。そこで最初から専門知識のある研究者と連携することで、貴重なスキルや知見を得られます。また産学連携を行うことで、研究者や専門家に対して、自社のアイデアや方向性をプレゼンテーションする機会が多くなります。そのため、提案力やプレゼン力、企画力などが養われ、会社にとって貴重な人材を育成できます。産学連携(産学官連携)の種類産学連携と一口に言っても、いくつか種類があります。経済産業省が発行した「ここからはじめる! 産学官連携」という資料のなかでは、・共同研究・受託研究・技術指導・奨学寄附金など、いくつかの産業連携の連携方法が紹介されています。共同研究共同研究は、大学と民間企業が対等な立場で連携する方法です。企業から大学に共同研究員を派遣するか、もしくは大学が直接経費を負担する方法があります。共同研究で得られる成果の知的財産は、発明に対する貢献度に応じて共有し、研究成果は原則として公表しなければなりません。詳しくはこちらの記事で解説しています。ぜひ参考にしてみてください。参考記事:産学連携(産学官連携)の「共同研究」とは|メリットやデメリット、事例を紹介受託研究企業から研究者の派遣はせず、大学や研究機関が企業からの受託を受けて研究し、研究成果を企業に報告する方法です。大学の受託研究では、企業が研修経費を負担しますが、研究成果の知的財産権は大学に付与されます。技術指導企業の課題について、大学や研究機関から研究者をよび、技術的な指導を受ける方法です。派遣される研究者は研究兼業の形式を取り、大学に籍を置いたまま企業と雇用契約を結びます。研究活動に支障がないように企業で就労できる時間には制限があり、さらに大学での研究施設は利用できません。奨学寄附金奨学寄附金とは、大学が学術研究や教育の充実を目的として、民間企業から受け入れる寄付金です。奨学寄附金は手続きが簡単で、複数年度にまたがって利用できるメリットがあります。一方で、奨学寄附金を受けた研究で得られた研究成果の知的財産権は大学に帰属し、寄付者である企業側には権利がありません。これらの他にも、「技術相談」や「ライセンシング」などさまざまな方法があります。産学連携(産学官連携)の成功事例経済産業省が公表している資料には、産学連携で実際に成功した有名企業の事例がいくつも掲載されています。その一部をご紹介します。京都市産業技術研究所と佐々木酒造株式会社京都市産業技術研究所と佐々木酒造株式会社の連携で生まれた『白い銀明水』というノンアルコール飲料。佐々木酒造株式会社がもつ伝統的な甘口清酒製造技術と、京都市産業技術研究所の最先端の計測分析技術による米麹の成分分析が合わさって誕生しました。興和株式会社と財団法人岐阜県研究開発財団医薬品・医療機器の製造をしている興和株式会社は、緑内障の予防や診断に用いられるステレオ撮影用の眼底カメラをシステム化し、販売することに成功しました。この眼底カメラの開発でも、岐阜大学大学院医学系研究科・岐阜大学医学部附属病院とともに、管理法人である財団法人岐阜県研究開発財団の協力がありました。産学連携(産学官連携)の導入方法いざ産業連携の導入を決めても、まず何から着手すれば良いのか迷うかもしれません。ここでは、企業の産学連携の導入方法を解説します。企業の産学連携導入の流れは、主に下記のとおりです。自社の企業戦略の課題を明確化する課題のニーズに合う研究者や研究機関を探す研究者や研究機関の候補に確認をする1. 自社の企業戦略の課題を明確化する民間企業が産業連携をする意味は、自社内だけでは不足しているスキルや知見の部分を、大学や研究機関の専門家の力を借りて成果を出すことです。そのためには、依頼する大学や研究機関を探す前に、まず自社の課題の明確化が重要です。・どのような分野でどのような形で進出して、どのくらい売り上げを上げたいのか?・自社内で不足していて、より強化したい部分はどこか?・研究開発をするにあたってどこまで投資できるか?などの点を具体的に洗い出しましょう。「何か良い技術を見つけられれば……」といった抽象的な目的ではなく、いつまでにどのぐらいの研究成果や売り上げにつなげたいのかを、具体的にまとめることが大切です。2. 課題のニーズに合う研究者や研究機関を探す自社の課題が明確化したら、課題の解決につながる知見・技術をもっていそうな大学や研究機関の候補を探します。探す方法としては、技術シーズを検索できるデータベースやWebサイト・冊子で検索したり、新聞記事やプレスリリースで発表されている新技術から研究元をたどったりする方法があります。もしくは、学会や展示会に足を運んで直接情報を得ることもできます。場合によっては大学や企業の担当者と直接話すことができるので、相談しやすいのがメリットです。また、産学連携専門の機関もあります。特定の大学や研究機関の候補が決まっていなくても、まずは産学連携専門機関のコーディネーターに相談してみるのも良いでしょう。企業のニーズや課題点をヒアリングしたうえで、合いそうな大学や研究機関を紹介してくれます。3. 研究者や研究機関の候補に確認をする候補となる研究者や大学・研究機関が見つかったら、さっそく産学連携ができないかを打診してみましょう。その際、研究者や大学・研究機関に直接コンタクトを取るのではなく、まずは対象組織の産学連携窓口に相談します。多くの大学では、その大学内に産学連携(産学官連携)本部が設置されており、大学のWebサイトに情報が載っています。産学連携の打診をする際には、・他社との共同研究の有無と状況・事業化までに解決すべき課題・他の技術と比較した優位性・特許の有無・必要な研究開発投資・産学連携が自社にもたらす効果などを確認します。産学連携(産学官連携)の注意点産学連携は大学・研究機関と民間企業双方にとってメリットの多い方法ですが、いくつか注意点もあります。知的財産権の帰属先を明確にしておく前述のとおり、産学連携によって得られる知的財産権の帰属先は、産学連携の種類によって異なります。あとで権利に関するトラブルを起こさないためにも、連携を始める前に、必ず知的財産権の扱いについて双方で合意を得る必要があります。決定した内容は契約書に明記しておきましょう。共同研究費の負担先や金額も明確にしておく知的財産権だけではなく、共同研究費の負担先・金額も先にしっかり決めておきましょう。例えば前述のとおり、共同研究なら大学や研究機関が経費を負担することも。一方の受託研究であれば、企業が経費を負担します。また共同研究費は、企業と大学・研究機関双方の合意に基づく契約で決まります。企業は、研究にかけられる予算が決まっています。さらに大学や研究機関は、その研究に結果的にどのくらいの労力や時間を費やすかあらかじめ読みづらく、先に正確に提示できないことも。研究に直接かかる直接コストだけではなく、インフラの設備管理費など間接コストも見込む必要があります。その結果、適切な金額の共同研究費が支払われず、研究の貢献度に見合わないことも起こり得ます。企業の予算や大学・研究機関側のコストを考慮して、それに見合う共同研究費を決定し、契約書に明記してトラブルを防ぎましょう。長期的な視点で取り組む産学連携に取り組む際は、期間が長くかかることを念頭におきましょう。企業のもつ課題点やニーズを解決できる、技術や研究成果がある大学や研究機関を、すぐに見つけられるとは限りません。また研究成果を出すまでにも時間がかかることが多いです。産業連携をしたからといってすぐに課題が解決できるわけではなく、長期的な視点で取り組むことが求められます。本業に影響が出ないようにする共同研究や技術指導などでは、企業と大学・研究機関の間でお互いに派遣される共同研究員がいます。共同研究員は、本業と派遣先の業務の兼業となるため、本来の職務と兼業先の業務を確実に切り分けて管理する必要があります。派遣先での業務負荷が大きく、本来の業務や研究に支障が出てしまうことは避けましょう。派遣先での勤務時間、勤務場所、業務内容などを明確に定めて共有しておくことが重要です。時代は産学連携(産学官連携)から「産学協創」へ「産学連携(産学官連携)」から発展した言葉に、「産学協創」があります。両者は広義ではほぼ同じといえます。産学連携は民間企業と大学・研究機関の「連携」を指しますが、連携するだけではなく新たな社会的・経済的価値の創出を目指す観点から、「連携」ではなく「協創」という言葉を使う動きが出てきました。それが「産学協創」です。例えば東京大学では、2004年4月に「産学連携本部」が発足しましたが、2016年4月には「産学協創推進本部」に名前が変わりました。東京大学の教育研究活動は、ベンチャー企業を多く創出するなど、社会貢献の観点で大きなポテンシャルがあります。一方で、共同研究数は国内大学のなかでもトップクラスですが、小規模なものが多く、産業界との連携には課題点も残ります。そこで、同大学を「知の協創の世界拠点」とし、産学協創によってさらに社会で活躍する人材を育成し、活用していく戦略が打ち出されました。さらにベンチャー企業の増加も加味し、主体性がある、変化を楽しむといったベンチャーマインドを持った人材育成にも力を入れています。参照:「産学連携」から「産学協創」へ/首相官邸企業と大学・研究機関双方にメリットがあり、協力して社会貢献できる産学連携(産学官連携)産学連携では、大学・研究機関の貴重な研究シーズや研究成果からイノベーションが生まれ、社会発展の貢献につながります。企業と大学・研究機関それぞれに大きなメリットがあり、今後も産学連携は増えていく可能性があります。ちなみに、大学や研究機関では、貴重な研究成果を発表する場として学会があります。学会の準備や当日の運営をまとめて効率的に行うなら「らくらくカンファレンス」がおすすめです。最短30日ですぐに利用開始でき、学会当日のオンラインプラットフォームだけの利用も可能です。詳しくはこちら▼らくらくカンファレンス|最短30日ですぐ利用可能!学会運営サポートシステム