産学連携(産学官連携)は、経済産業省と文部科学省によって推進されている取り組みで、新事業創出や新技術開発の観点から注目されています。本記事では、産学連携(産学官連携)の連携方法の1つである「共同研究」について、メリット・デメリットやポイント、事例などを解説します。なお、産学連携については次の記事で解説しています。関連記事:産学連携(産学官連携)とは?メリットや事例を解説|産学協創との違いも前提としての定義や、産学連携の種類、さらには事例や推進にあたっての注意点など総論的に知りたい方は、まずはこちらの記事をご確認ください。産学連携(産学官連携)の連携方法について大学や高等専門学校などの研究・教育期間と、民間企業とが連携し、新事業創出や新技術開発を目指す産学連携ですが、さまざまな種類があり、目的に合った方法を選ぶことが重要です。産学連携の連携方法の種類としては、・共同研究・受託研究・技術指導・奨学寄附金・依頼試験・ライセンシングといった方法があります。今回は、このなかで「共同研究」について詳しく解説します。共同研究とは産学連携の共同研究とは、大学と民間企業が対等の立場で研究を行う方法です。双方の間で共同研究契約を結ぶ必要があります。共同研究には下記2つの組み合わせがあります。①企業から大学に共同研究員を派遣する②大学が直接経費を負担する共同研究の場合、特許などの知的財産は、発明に対する貢献度に応じて共有することになっています。また、共同研究における研究結果は、原則公表しなければなりません。共同研究での経費の例としては、・直接経費:備品費、消耗品費、研究支援者の人件費、光熱水料など・間接経費:大学や研究施設の維持管理経費などがあります。「①企業から大学に共同研究員を派遣する」は、大学に、民間企業などから研究者を派遣する方法です。研究料も企業から大学に支給され、1人あたり年額50万円ほどが大学側に支払われます。研究料の他にも、大学の間接経費を、直接経費に一定の料率をかけて納めます。共同研究のメリット共同研究にはさまざまなメリットがあります。大学側への共同研究のメリットをいくつか解説します。研究テーマの考案が不要共同研究では、研究テーマは企業側から割り振られます。そのため、大学側で、研究の背景や目的などを考える時間を省くことができ、研究に集中しやすくなります。課題解決や研究成果につながりやすくなるいくら大学の研究設備が整っていても、研究者だけでは研究内容やかけられる時間に限界があることも。そこで共同研究で企業とタッグを組むことで、新たな視点を得られたりノウハウを共有したりでき、研究が進めやすくなります。その結果、成果や課題解決につながりやすくなるかもしれません。企業のノウハウやビジネス視点を得られる企業からの研究者とともに研究を進めることで、大学にはない企業の研究スキルやビジネスノウハウを得やすくなります。特にマーケティングや顧客ニーズ、売上試算、コストに対する意識など、ビジネス面でのノウハウや視点はやはり企業が強いです。これらのビジネスノウハウを直接吸収できるのも、共同研究ならではの利点です。コストを削減できる共同研究では、前述のとおり企業から大学に研究料や直接経費、間接経費が支給されます。大学だけでは費用面で諦めなければならなかった研究も、企業からの費用援助があることで進められるかもしれません。共同研究のデメリットメリットが多い共同研究ですが、一方でデメリットもあります。研究成果や利益を独占できない共同研究では、研究成果は大学と企業で分け合わなければなりません。研究成果には、試験結果や試作品、著作権、技術情報などがあります。技術情報のなかでも、知的財産権の保護対象になるものとならないものがあるので注意が必要です。共同研究における研究成果の帰属や利益配分については、のちのちのトラブルを回避する意味でも、研究開始前にお互い合意を取っておくことが重要です。難度の高い研究テーマと研究成果を求められることが多い前述のとおり、共同研究では企業側から研究テーマが渡されます。企業から渡される研究テーマは、大学内で設けるテーマよりも難度が高いものが多いようです。さらに共同研究では、研究期間の期限を設けるのが一般的です。期限内にしかるべき研究成果を出さなければならず、大学内だけで進める研究よりもプレッシャーが大きくなることもあります。複雑な書類手続きが必要になる共同研究では異なる2つの組織が共同で研究を進めるため、研究開始前には共同研究契約を締結しなければなりません。共同研究契約の中では、役割分担や研究責任者の特定、研究開発費の負担合意など、共同研究にあたって必要な重要事項を取り決めます。内容の取り決めに関してお互い十分に話し合い、複雑な契約書類を準備する必要があります。共同研究を進めるうえでのポイント共同研究の実施にあたって留意すべきポイントを解説します。共同研究の目的を明確にする共同研究では、研究の目的をお互い明確にすることが重要です。研究の目的をクリアにしておかないと、研究途中で方向性がブレたり、どちらかに不利益や負担がかかったりすることも考えられます。また、どちらか一方だけが知識やノウハウを提供する、という不公平感も生じかねません。共同研究を開始する前に、研究の目的をお互い認識し、共同研究契約にも明記しておきましょう。研究成果の帰属も明確にする研究成果の帰属先も、研究開始前に双方で合意を取り、共同研究契約へ明記します。研究成果(試験結果、試作品、著作権、技術情報など)は、大学、企業のどちらか、もしくは両方に帰属するのかを明確にしておきましょう。研究成果がでたあとに成果の帰属先を決めようとするとトラブルになりやすいので、必ず研究開始前に取り決めておくことをおすすめします。定期的に進捗確認する共同研究では、定期的な進捗確認の場を設けることも重要です。大学と企業間で定期的に研究の進捗状況を共有しておくことで、研究目的からのズレを防いだり、双方の認識の相違によるトラブルを防げたりします。進捗確認は、オンラインミーティングなどで、1ヶ月に1回ほどを目安に行うと良いでしょう。共同研究の事例2選最後に、実際に共同研究を行って成功した事例を2つご紹介します。株式会社ブレイン+兵庫県立大学アプリ開発を行っている株式会社ブレインと、画像識別技術を確立している兵庫県立大学。共同研究したのは、ベーカリーショップのレジに設置する会計システムです。一つひとつにバーコードや値札を付けられないベーカリーショップのパンは、商品を目で見て覚える必要があり、スタッフ教育に大きな時間がかかっていました。そこで、画像でパンを瞬時に識別する技術開発のため、共同研究を開始し、会計システム『ベーカリースキャン』の実用化に成功しました。株式会社たかすファーマーズ+岐阜大学株式会社たかすファーマーズは、岐阜のひるがの高原で牛乳やチーズなど乳製品を販売している会社です。同社では、ひるがの高原で独自に採取された乳酸菌を使い、オリジナルのヨーグルトドリンクを開発することになりました。そこで、使用する乳酸菌のスクリーニングと同定を岐阜大学に依頼。自然界からの有用乳酸菌株の探索という難題も、同大学の研究の協力があったおかげで、無事商品化につなげられました。参照:飲むヨーグルト(ドリンクヨーグルト)の共同開発|岐阜大学共同研究で、研究成果の事業化への可能性が広がる共同研究は、大学での貴重な研究成果を事業化につなげられる大きなチャンスです。本記事でご紹介したメリット・デメリットやポイントをぜひ参考にしてください。「らくらくカンファレンス」は、使いやすいシステムと専任スタッフにより、学会のスムーズな運営を徹底サポートします。また、公式Webサイトでは、「お役立ちコラム」で研究者に有益な情報も定期的に発信しています。詳しくはこちら▼らくらくカンファレンス|産学連携にもつながる研究成果発表の場の運営をサポート