近年の学術雑誌(ジャーナル)では、論文にグラフィカルアブストラクトが使用されることが増えてきました。グラフィカルアブストラクトは通常のアブストラクト(要旨)とどのような違いがあるのでしょうか。また使用するメリットは何なのでしょうか。今回は論文の理解をより深める「グラフィカルアブストラクト」を解説します。グラフィカルアブストラクトとはグラフィカルアブストラクトとは、「Graphical(図版の)」+「Abstract(要旨・概要)」の意味で、図版で描かれた要旨を指します。一般的な学会の要旨(アブストラクト)は、研究や論文の概要を簡潔にまとめた文章です。研究の背景から結論までを短い文章に要約し、要旨を読めばどのような研究内容か理解できるようになっています。要旨は文章のみですが、グラフィカルアブストラクトは文章ではなく、図版で表した研究の概要図です。ビジュアルアブストラクトも似た意味で使われます。▼グラフィカルアブストラクトのイメージグラフィカルアブストラクトの目的は、研究や論文の要点を、読者に一目で把握してもらうことです。一枚の図版の中に視覚的要素がまとめられており、一目見ただけで研究の全体像が簡単に把握できることがポイントです。視覚的要素は図版やグラフ、データの図解、実験プロセスチャートなどさまざまあります。グラフィカルアブストラクトを使用する場所は、主に論文の冒頭です。論文の他にも、学会参加時に行う演題登録で要旨と一緒に提出することもあります。ちなみに、グラフィカルアブストラクトは要旨の代わりになるわけではありません。あくまでもグラフィカルアブストラクトと要旨はセットの扱いになり、グラフィカルアブストラクトで図版で説明しつつ、要旨として文章でも説明するイメージです。もし要旨がなくグラフィカルアブストラクト単体で発表したとすると、文章がないため文献を検索した際に引っかかりません。関連記事:学会の抄録とは?|書き方や注意点をくわしく解説グラフィカルアブストラクトを作成するメリットグラフィカルアブストラクトを作成する4つのメリットをご紹介します。一目で即座に研究の要点を伝えられるグラフィカルアブストラクトの大きな利点は、一目で読者の関心を集め、迅速に内容を理解させられることです。文章のみの要旨であれば、じっくり文章を読解しなければならず、内容を理解するのに時間がかかってしまいます。しかしグラフィカルアブストラクトなら、絵や図版などビジュアルで情報を伝えるので、パッと見て多くの内容が把握しやすいです。また重要なポイントは大きくして目立たせ、補足情報は小さく配置するなど、レイアウト次第で重要な点を明確にできます。数ある論文のなかで一目で内容がわかると、詳しく論文を読んでみたいと読者の関心を得られやすくなるでしょう。シェアの増加につながるグラフィカルアブストラクトは一枚の図版なので、SNSやメールなどに添付してシェアしやすいメリットもあります。特にSNSの投稿へ添付すると、自分の研究成果を多くの方に見てもらえます。何の研究をしているか一目瞭然なのでシェアもされやすく、より多くの人たちに自分の研究や論文を知ってもらうプロモーションになります。要旨でも掲載先のURLを貼ってシェアはできますが、グラフィカルアブストラクトのほうが一目で内容がわかるので興味を惹きやすいです。論文を見つけてもらいやすくなるグラフィカルアブストラクトを付けることで、論文を読者に見つけてもらいやすくなります。投稿された論文がまとまったWebサイトや学術雑誌の論文一覧では、論文だけよりもグラフィカルアブストラクトの図版が1枚あるだけで、目に留まりやすくなります。言語がわからなくても研究内容を伝えやすいグラフィカルアブストラクトの特徴は、言葉ではなく視覚的な情報で研究内容をまとめることです。そのため、母国語以外の言語の研究であっても内容が伝わりやすく、読者への理解を助けるメリットがあります。例えば日本語を母国語としない方々が日本語の研究内容を、英語を母国語としない人が英語の研究内容をつかみやすくなるのは、大きなメリットです。特に専門用語は難解で聞きなれない単語も多いため、グラフィカルアブストラクトで図版の説明もあることで内容がおおまかに把握できます。グラフィカルアブストラクトの作り方グラフィカルアブストラクトのメリットを理解したところで、さっそく作成の手順をみていきましょう。1:キーワードを決めるまずはキーワードを決めましょう。今回の研究内容でもっとも伝えたいこと、アピールすべき点、新規性が高い点(新しい発見)など重要な点をピックアップし、キーワードを1つ定めます。ここで重要なのは、キーワードは1つだけでシンプルにすること。研究に関してたくさん伝えたいことがあるかもしれませんが、複数のキーワードを定めて要素を盛り込みすぎると、グラフィカルアブストラクトの「一目で内容が把握できる」という利点が活かしきれなくなってしまいます。2:ラフスケッチ(下書き)をする1で決めたキーワードを伝えるために、必要な要素を洗い出してざっくりと下書きをしましょう。自分が確認するだけの下書きなので、ノートにペンでラフに手描きするだけで十分です。要素として、絵や図版、グラフなどの視覚的要素をいくつか配置し、それぞれに付随するテキストがあれば付け足します。特に重要な点は、大きく配置して目立たせるのがおすすめです。どうしても不可欠な場合を除き、載せる要素は参考文献の内容ではなく、自分の研究内容からセレクトしましょう。ここでも重要なのは、簡潔でわかりやすいレイアウトです。1枚の図版にぎっしり要素を詰め込むのではなく、あくまでも重要な要素だけをシンプルに配置します。テキストも極力控えめにして、あくまでも視覚的情報をメインにするのが重要です。また図版内は、上から下、左から右と、読者が目で追って読む流れを意識すると意味が伝わりやすくなります。流れをわかりやすくするために、矢印もうまく配置すると良いでしょう。3:実際にデザインを作成する下書きが済んでおおまかなレイアウトや要素が整理できたら、さっそくグラフィカルアブストラクトの作成に着手しましょう。作成で使うツールはパワーポイントで十分ですが、デザイン性にこだわるならAdobeのPhotoshopやIllustratorなどのデザインツールを使うのもおすすめです。レイアウトは余白も意識するとすっきりと見やすくなります。使う色も、何色も使ってカラフルにするのではなく、メイン1色+サブ2色くらいに抑えたほうが統一感がでて見やすくなります。テンプレートから簡単にグラフィカルアブストラクトを作成できる専用ツールもあるので、利用するのも手です。ただし英語のみのツールが多いようです。グラフィカルアブストラクトを作成するときのコツグラフィカルアブストラクトは、コツを抑えて作成すれば格段に見やすく、内容も伝わりやすくなります。作成のコツをいくつか解説します。ビジュアルはシンプルに前述のとおり、グラフィカルアブストラクトは一目で見て内容がすぐに把握できることが重要です。そのためにも、内容は極力シンプルに、重要な要素だけで構成しましょう。視覚的要素やテキストが多すぎてごちゃごちゃしていると、要素のなかで何が重要なのか、結局何が伝えたいのかがわかりづらくなってしまいます。グラフィカルアブストラクトは基本的には1枚のみグラフィカルアブストラクトは基本的に1枚のみで、複数枚に及ぶことはありません。そのため、1枚のなかに要素をどう構成するか、1枚だけで伝えたいことをまとめきれるかが求められます。データの規定がないか先に確認グラフィカルアブストラクトを投稿する学術雑誌(ジャーナル)によっては、提出するグラフィカルアブストラクトのデータの規定が定められていることもあります。データの大きさやデータ形式、フォントの種類や大きさなど規定がないか、作成前に確認しておきましょう。論文で使用した図版をそのまま載せてはいけない場合もある論文のなかで使用している図版やグラフなどをそのままグラフィカルアブストラクトにも載せることは、避けたほうが良いです。グラフィカルアブストラクトは、あくまでも論文の補足となる役割です。グラフィカルアブストラクト自体が論文を構成する図版の1つという扱いなので、論文中にまったく同じ図版が重複していないほうがベターです。「らくらくカンファレンス」なら気になるグラフィカルアブストラクトから演題を探せる論文にグラフィカルアブストラクトを添えることで視覚的情報が追加され、より多くの方の興味を惹きやすくなったり、言語がわからなくても研究内容を伝えたりできます。グラフィカルアブストラクトをうまく利用して、自分の研究内容をより効果的にアピールしましょう。学会の運営を支えるシステム「らくらくカンファレンス」なら、グラフィカルアブストラクトを効果的に使えます。演題登録時にグラフィカルアブストラクトを登録すると、タイムテーブルやポスター一覧に表示されるので、パッと見て内容が伝わりやすく参加者の興味を惹きます。また「発見」という機能を使うと、登録されたグラフィカルアブストラクトがランダムで次々と表示されます。グラフィカルアブストラクトの下には「LIKE」と「SKIP」の2つのボタンがあり、もっと内容を詳しく見たい、興味がありそう、と感じたグラフィカルアブストラクトだけ「LIKE」をクリックします。LIKEをクリックすると「マイスケジュール」(ブックマーク機能)に演題が追加されるので、あとで発表にアクセスしやすくなります。気になる演題を直感的に判断でき、より自分の興味に合った演題を気軽に探せる便利な機能です。詳しくはこちら▼らくらくカンファレンス|グラフィカルアブストラクトを直感的にサーチできるオリジナル機能も