オンライン学会(WEB学会)を行う際、録画した動画を会期後も閲覧できるようにする「オンデマンド配信」を取り入れる学会が増えています。今回は、学会のオンデマンド配信とはそもそもどのようなものなのか、メリットは何なのか、著作権で注意すべき点は何なのかを解説します。学会のオンデマンド配信とは?オンライン学会の開催形式は、・フルリモート形式・ハイブリッド形式・オンデマンド形式の3種類に分けられます。フルリモート形式は、発表者・参加者・運営者などの学会に関わる全員が、オンラインで参加します。フルリモート形式に現地開催もプラスして、オンラインと現地の両方で同時開催するのがハイブリッド形式です。今回ご紹介するオンデマンド形式は、録画した動画を、学会当日(もしくは後日)に配信する形式です。オンデマンド配信の反対はライブ配信になります。関連記事:オンライン学会(WEB学会)の運営方法は?スケジュールや円滑に行うポイントオンデマンド形式は、配信する動画の撮影タイミングによって、さらに下記の2つのパターンに分けられます。事前に録画した映像を配信学会開催日より前にあらかじめ発表動画を録画・編集しておく方法です。学会当日は、スケジュールに沿ってその発表動画をプラットフォーム上で配信します。学会当日の録画を配信学会の発表内容を学会当日に録画しておき、その動画を編集して、学会の会期後にオンラインで配信する方法です。学会はオンライン形式はもちろん、現地開催やハイブリッド形式の開催もすべて対応できます。学会のオンデマンド配信のメリットとは学会をオンデマンド配信することで、学会運営者にとっては大きなメリットがあります。3つのメリットをご紹介します。より多くの参加者に発表を見てもらえる可能性があるまず大きなメリットとして、学会の発表内容をより多くの人に見てもらえる可能性があります。オンデマンド配信は生中継ではないので、参加者はいつでも自分の好きな時間に発表動画を視聴できます。発表者が多い大規模な学会だと、どうしても興味のある発表の時間が被ってしまうこともあります。また急な体調不良など、やむを得ない事態で当日都合がつかなくなることもあるでしょう。その点オンデマンド配信なら、リアルタイムではなくても、あとで気になる発表をゆっくり視聴できます。こうすることで、より多くの参加者に貴重な発表を見てもらえる可能性があります。当日だけでは集めきれなかった意見や質問、フィードバックをもらえるかもしれません。発表の撮り直しができる事前に動画を録画するオンデマンド配信に限られますが、発表を間違えても撮り直しができるのも利点です。学会当日ではなく事前に発表動画を録画するので、発表の途中で言い間違えをしてしまったり、あとで付け足したいことが増えたりしても撮り直しが可能です。もちろん何十回と撮り直しになると対応しきれないこともありますが、基本的にぶっつけ本番ではないので、発表者の心理的なプレッシャーは少し下げられるかもしれません。当日の急なトラブル対応を減らせる発表を生中継で配信すると、どうしても当日ならではのトラブルのリスクがあります。トラブルの一例として、オンライン環境が悪く動画が途中で途切れる、フリーズする、音声が聞こえない、ハウリングを起こす、などが考えられます。しかしオンデマンド配信で事前に録画した動画を配信するなら、このようなトラブルはほぼありません。当日の急なトラブル対応による運営負担を減らせます。学会のオンデマンド配信は著作権に注意(公衆送信権)学会のオンデマンド配信にはメリットが多くありますが、1つ注意しなければならないのがコンテンツの著作権です。一般的な学会の場で発生する、・発表・ポスター・プレゼン資料・質疑応答のやりとりなどのコンテンツは、すべて発表者に著作権がある「著作物」に該当します。これらの著作物をインターネット上や有線放送などで公衆向けに配信・伝達する権利を「公衆送信権」といい、オンデマンド配信も公衆送信の扱いになります。そのため、これらの内容を録画してオンデマンド配信する場合は、誰でも自由に録画して配信して良いわけではなく、必ず著作権者(=発表者)の承諾が必要になります。著作権者の権利を侵害しないためにも、学会前に必ず書面やオンライン上で著作権の説明をしておきましょう。まず学会の参加者側には、・オンデマンド配信閲覧用のURLやパスワードは他人に共有しないこと・オンデマンド配信される内容、特に発表者の用意した資料や発表内容などの著作権はすべて発表者本人にあるので、閲覧中に画面のキャプチャや録画・録音などは絶対に行わないことなどを周知しておくことが重要です。これを無視して、例えば参加者がオンデマンド配信の内容をスクリーンショットしてSNSにアップするなどの行為があれば、発表者の著作権侵害になります。また、学会の発表者側にも、著作権の許可を必ずとっておきましょう。学会の主催者が発表者の発表内容や資料、質疑応答などを録画してオンライン上で配信することに対し、発表者本人の承諾を得ます。ただし、発表者によっては、発表資料だけはスクリーンショットやダウンロードをしてもOKにする人もいます。発表資料の著作権利用許可区分も、発表者ごとに先に確認しておくと安心です。例えば、・発表資料をダウンロードはOKだが、二次使用は不可・発表資料はダウンロードも二次使用も不可・発表資料はダウンロードして印刷も可などが考えられます。オンデマンド配信はどれだけコストがかかる?オンデマンド配信の導入で気になるのはコスト面です。まず、オンデマンド配信をするにあたって、必要な各種ツールの導入費がかかります。オンデマンド配信の有無に関わらず、オンライン開催やハイブリッド開催などオンライン上での学会の配信がある場合は、ライブ配信(動画配信)用のツールが必要です。ライブ配信用のツールでよく使われているのは、「Zoom ウェビナー」です。Zoom ウェビナーは、通常のZoom ミーティングで有料プランを契約し、追加機能として加えることで使えるようになるツールです。Zoom ウェビナーには、学会発表中に発表を自動で録画してくれる機能があるので、その動画を後日オンデマンド配信できます。ライブ配信用のツールの他にも、あると便利なツールは、・資料掲示用のプラットフォームツール・コミュニケーションツールです。資料掲示用のプラットフォームツールは、学会の要旨やデジタルポスターなどを掲示するプラットフォームツールです。事前に録画した発表動画を配信する場合も、このツールに動画をアップします。コミュニケーションツールは、オンデマンド配信では必須ではありませんが、あるとベターです。会期後のオンデマンド配信期間中でも、ツール上で発表者と参加者がやりとりができるので、より研究内容に対するフィードバックが深まったり、新しい人脈が築きやすくなったりします。上記のツール導入費に加え、当日録画する場合は、動画の撮影や編集をする人件費、使用する機材費などがかかります。関連記事:オンライン学会(WEB学会)にかかる費用は?現地開催とのコストの違いを解説オンデマンド配信をした学会の例最後に、「らくらくカンファレンス」で実際に行われた、オンデマンド配信ありの学会の例をいくつかご紹介します。第50回 日本免疫学会学術集会会期:2021年12月8日~10日オンデマンド配信:2021年12月15日~2022年1月14日第50回 日本免疫学会学術集会は、奈良県にある会場での現地開催とオンライン開催を同時に行う、ハイブリッド開催でした。学会当日の内容を録画しておき、らくらくカンファレンス上でオンデマンド配信しました。会期後約1ヶ月間はオンデマンド配信を視聴可能にしておき、結果的にオンデマンド配信だけで19,000ビューほども閲覧されました。第50回 日本免疫学会学術集会のオンデマンド配信に関しては、下記インタビュー記事に詳しくまとめてあるので、こちらもぜひご覧ください。関連記事:オンデマンド配信で複数の発表を閲覧可能|渋谷先生が語るONLINE CONF導入のメリットとは大会Webサイト:第50回日本免疫学会学術集会第69回 日本生態学会大会会期:2022年3月14日~19日オンデマンド配信:2022年3月29日~5月8日第69回 日本生態学会大会は、完全オンライン形式で開催された学会です。すべての講演をオンデマンド配信するだけではなく、バーチャル空間での参加者の交流会も設定し、オンラインでもさまざまな人が参加しやすい工夫がされました。大会Webサイト:第69回 日本生態学会大会第9回 日本心血管脳卒中学会学術集会会期:2022年4月23日オンデマンド配信:2022年5月16日~6月16日第9回 日本心血管脳卒中学会学術集会は、「脳心連関から考える循環器病対策」をテーマに、完全オンライン開催で開催された学会です。会期後の1ヶ月間にわたって、オンデマンド配信も視聴可能にしました。大会Webサイト:第9回日本血管脳卒中学会学術集会「らくらくカンファレンス」で、オンデマンド配信でも円滑なコミュニケーションを学会のオンデマンド配信を導入することで、当日都合がつかなかった多くの参加者に発表を見てもらえる機会になります。著作権や必要なツールに留意しながら、オンデマンド配信も活用して有意義な学会にしましょう。「らくらくカンファレンス」では、配信動画とコメント欄が同じページ上にあります。会期後のオンデマンド配信期間でも、発表者と参加者のコミュニケーションが取りやすいです。また発表者に直接メールできる機能もあるので、気になる点を深堀りしやすくなります。オンデマンド配信を考えている学会運営者の方は、ぜひらくらくカンファレンスもチェックしてみてください。詳しくはこちら▼らくらくカンファレンス|会期後のオンデマンド配信でも円滑なコミュニケーションを