関係者だけでなく、誰もがインターネット上で研究論文を見られるようにする「オープンアクセス」。情報アクセスの平等化や、さらなる研究発展などが期待される仕組みですが、近年ではこのオープンアクセスをさらに拡大した「オープンサイエンス」という概念も広がってきています。本記事では、「オープンサイエンス」を解説します。オープンサイエンスとは?「オープンサイエンス(open science)」に明確な定義はありませんが、オープンアクセスに加え、研究データも公開(オープン化)する概念を指します。そもそもオープンアクセスとは、誰でも無償で、研究成果の論文をインターネット上から閲覧できるようにすることです。情報収集への平等化、さらなる研究発展、イノベーション創出などを促進する目的があります。このオープンアクセスで公開されるのは基本的に論文ですが、その論文に加えさらに研究データも公開するという概念が「オープンサイエンス」です。令和3年3月に内閣府に閣議決定された「第6期科学技術・イノベーション基本計画」のなかでも、オープンサイエンスについて下記の記載があります。ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー「新たな研究システムの構築(オープンサイエンスとデータ駆動型研究等の推進)」における目標オープン・アンド・クローズ戦略に基づく研究データの管理・利活用、世界最高水準のネットワーク・計算資源の整備、設備・機器の共用・スマート化等により、研究者が必要な知識や研究資源に効果的にアクセスすることが可能となり、データ駆動型研究等の高付加価値な研究が加速されるとともに、市民等の多様な主体が参画した研究活動が行われる。ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー参照:第6期科学技術・イノベーション基本計画|内閣府オープンサイエンスの目的については、次に詳しく解説します。参照:オープンサイエンスの推進について|文部科学省オープンサイエンスの目的・意義オープンサイエンスには、研究者はもちろん、研究者以外の一般企業や市民にも向けた目的や意義があります。それぞれ解説します。研究者への目的や意義内閣府が発表した「第5回 国際的動向を踏まえたオープンサイエンスに関する検討会 資料1」という資料によると、研究成果をまとめた論文や研究データに誰でも無償アクセスできることで、研究者にとっては下記のような目的や意義があるとしています。・研究成果を理解する・研究成果や仮説をより正確に検証できる・研究成果を自分の研究に再利用して、新しい研究概念の創出やイノベーションを加速させる・新たな産業の創出や経済成長に貢献する・論文や研究データの引用機会が増える・国際規模での研究の促進・研究予算の削減最後の「研究予算の削減」について、大学の研究費は科研費などの補助金もあるものの、使える費用が限られています。そのなかで、費用をかけずに貴重な論文や研究データを得られることは、大きな利点です。一般企業や市民などへの目的や意義論文や研究データに誰でも簡単にアクセスできることで、研究者の他に一般企業や市民にも利点があります。例えば研究プロセスを具体的に理解しやすくなり、研究の透明化が促進されます。また一般企業や市民が参画する協働プロジェクトがうながされ、産学連携につながる効果も期待されています。参照:第5回 国際的動向を踏まえたオープンサイエンスに関する検討会 資料1|内閣府関連記事:産学連携(産学官連携)とは?メリットや事例を解説|産学協創との違いもオープンサイエンスの事例すでにオープンサイエンスを実施している国立研究開発法人の例を、いくつかご紹介します。科学技術振興機構(JST)国立研究開発法人「科学技術振興機構(JST)」では、平成29年4月に「オープンサイエンス促進に向けた研究成果の取扱いに関するJSTの基本方針ガイドライン 」を施行し、すでに研究データの保存や公開を実施しています。同機構が研究資金を配分して実施された研究プロジェクトの成果に基づく論文は、基本的にすべてオープンサイエンスの対象とし、誰でもインターネット上で無償で閲覧できるようにしています。参照:オープンサイエンス促進に向けた研究成果の取扱いに関するJSTの基本方針ガイドライン 日本医療研究開発機構(AMED)国立研究開発法人「日本医療研究開発機構(AMED)」でも、研究データの登録先を指定して公開しています。同機構では、設立以来研究開発データを患者とその家族に迅速に届けることを重視しています。平成27年には「 IRDiRC(International Rare Diseases Research Consortium)」に加盟し、平成29年からは「Funder committee」の一員にもなり、希少疾患をもつ患者への確定診断のために国際的なデータシェアの推進をしてきました。その結果、診断各定数が増え、遺伝学的解析による診断率も増加しています。参照:AMED 研究データ利活用に係るガイドライン 1.1 版|国立研究開発法人日本医療研究開発機構海洋研究開発機構(JAMSTEC)国立研究開発法人「海洋研究開発機構(JAMSTEC)」でも、オープンサイエンスに関するデータポリシーを定めたうえでデータ公開を実施しています。同機構には先進的な研究環境が整っており、貴重な研究データやサンプルを得ています。同機関では、それらの研究データやサンプルは人類共有の財産であるととらえ、研究や教育のために広く利用されるべきと考えています。その考えのもと、同機構のデータベースにおいて無償で研究データやサンプルを公開しているのです。また、これらの研究データやサンプル公開によって市民にも利益が還元されるよう、産業利用も促進しています。参照:国立研究開発法人海洋研究開発機構 データ・サンプルの取り扱いに関する基本方針(データポリシー)オープンサイエンス推進の懸念点オープンサイエンスを推進するにあたって、懸念されている点をいくつか解説します。技術的インフラの整備オープンサイエンスでは、多くの研究データや論文が共有されます。研究者が求める論文や研究データに的確にリーチできるようにするためにも、データ管理のインフラの整備は不可欠です。例えば、・研究データを記述するメタデータ・データ処理のアルゴリズム・オンラインインフラなどを事前に整備しておくことで、オープンデータをうまく利活用できます。データの個人情報管理オープンサイエンスで閲覧できる論文や研究データのなかには、個人情報管理に注意しなければならないものもあります。特に、個人を特定できてしまうデータの取り扱いには、細心の注意が必要です。例えば医療関連のデータは、より質の高い医療の実現のために不可欠で貴重なデータですが、一方で患者個人の具体的な病歴や状態などの情報が入っているため、個人情報の取扱いを厳重に管理しなくてはなりません。著作権の確認オープンサイエンスでは、誰もが論文や研究データにアクセスできます。よって、その論文や研究データの著作権が誰に帰属しているかを明確にすることも重要です。あとでトラブルになるのを防ぐためにも、著作権が発生するデータ・発生しないデータを明確に記しておきましょう。参照:第5回 国際的動向を踏まえたオープンサイエンスに関する検討会 資料1|内閣府オープンサイエンスで情報シェアが進むことで、さらなる研究の発展が期待される誰でも気軽に研究成果にアクセスできることで、より多くの研究の発展やイノベーション創出、さらに産学連携など社会経済の発展も期待できます。産学連携や研究成果の発表、論文などについては、「らくらくカンファレンス」のコラムでも有益な情報を発信しています。こちらもぜひご覧ください。詳しくはこちら▼らくらくカンファレンス|論文や学会、産学連携などのお役立ちコラムも発信中