研究成果の報告方法には、学会発表と論文投稿があります。自分の研究はどちらの形式が適しているのか、どちらを先に行えば良いのか迷われる研究者の方も多いかもしれません。今回は学会発表と論文投稿の違いを、それぞれの目的やメリット、注意点を比較しながらご紹介します。学会発表と論文投稿の違い研究成果を発表する方法には、学会での発表と論文投稿の2種類があります。双方の簡単な違いは下記のとおりです。学会の発表は、研究成果の速報を伝える場です。まだ研究が最後まで終了していなくても、現時点での途中成果の報告として発表を行います。発表の時間や要旨の文字数などに制限が設けられているので、制限時間や制限文字数内で要点をまとめて簡潔に伝えることが重要です。要旨は200~400文字ほどの文字数制限が多いようです。対して論文投稿は、最後まで終了した研究成果をすべてまとめたものです。研究を論文にまとめて学術雑誌に投稿し、自分の研究業績として残します。文字数も学会発表での要旨よりはるかに増え、10,000文字前後が多いようです。学会発表が研究の途中地点だとすると、論文投稿は最終地点です。学会で発表すると、学会の参加者や他の研究者たちから意見やフィードバックを得られることも。その意見を活かして残りの研究を進め、最終的な成果まで出たらすべてまとめて論文として発表します。次から、学会発表と論文投稿、それぞれの具体的な目的やメリットを解説します。学会発表とはまずは学会発表の目的やメリットをみていきましょう。学会発表の目的学会発表の大きな目的は、他の研究者や参加者と交流しながらの意見や議論の交換です。学会には全国や海外から多くの研究者や参加者たちが集結します。普段なかなか会えないような方とも会え、議論を深めたり新たな人脈を形成したりできる貴重な機会です。まだ最後まで終了していない研究でも、人前で発表することで貴重なフィードバックや意見がもらえます。質疑応答で、自分では気付かなかった疑問点に気付けるかもしれません。同じ研究者同士の交流が生まれるきっかけの場でもあります。学会発表のメリット学会発表のメリットは、自分の発表した研究内容に関して第三者から意見やフィードバックをもらえ、今後の研究内容に活かせることです。学会の場で発表すれば、他の方からの新しい視点や意見を得られます。それを研究に活かすことで、結果的に論文のクオリティがより上がるでしょう。さらに学会発表では、プレゼン力や構成力の向上も期待できます。要点だけをわかりやすくまとめて第三者に説明するためには、研究の流れを背景から論理的に組み立てる構成力が必要です。さらに結論からシンプルに話し、聴衆の興味を惹きつけるプレゼン力も鍛えられます。加えて、学会に参加すると新しい人脈も形成しやすくなります。研究はどうしても自分だけで進めることが多く、孤独な作業になりがちです。遠方に住んでいて普段だと知り合えない方とも会えるので、同じような研究をしていたり、議論が深められたりするような相手との出会いが得られる可能性もあります。今後の共同研究のきっかけになったり、新たな仕事の話に発展したりすることもあるでしょう。学会発表のポイント学会発表のポイントは、自分の研究内容を要旨やポスターなどで、いかに簡潔にわかりやすく伝えるかです。学会の参加申し込み時に提出する要旨(抄録)は文字数の制限が設けられていることが多く、自分の研究の背景や趣旨、研究方法などを文字数制限内で簡潔にまとめなくてはいけません。さらにポスター発表でのポスターは、他の多くのポスターとともに並べて会場に掲示されます。そのため、会場内を歩く参加者の目に留まり、興味を惹きつけなければいけません。口頭発表で使うスライドも、実際に参加者に見せている時間は1枚あたり数秒ほどです。このようにスライドやポスターが参加者の目に留まる時間は限られるので、一目で伝えたい内容を把握でき、理解しやすいことが求められます。パッと見て大まかな研究内容がつかめると、興味を惹くだけではなく、結果的に有意義な意見やフィードバックにつながりやすくなるでしょう。関連記事:学会発表のポスター作成のコツ|作成の順序や、レイアウトについて解説関連記事:学会発表の準備のポイントを解説|ポスター作成のコツも学会発表の注意点学会発表の注意点は、ポスターやスライドに情報を盛り込みすぎたり、話すときにダラダラと多くの情報を話しすぎたりしないことです。ポスターは内容がわかりやすくシンプルな構成にし、スライドも1スライドに1メッセージだけにすると内容が伝わりやすいです。発表で話すときも、極力要点だけに絞って簡潔に伝えることを意識しましょう。最初は研究に至った背景から話し始めると、あとに続く研究や検証の内容が参加者に伝わりやすくなります。発表当日にいきなり簡潔に要点を話すのは難度が高いので、学会の前日までに発表練習をしておくことが重要です。要点から話すだけではなく、時間配分にも注意して発表練習をしましょう。研究室の教授や友人など、誰かに実際に練習を聞いてもらうのがおすすめです。また、学会当日は発表のあとに質疑応答の時間があります。他の参加者から疑問点を指摘してもらうのは、学会発表ならではの貴重な時間です。すぐに回答できない質問をもらった場合は、無理にその場で答えようとせず、調べてあとで回答する旨を伝えればOKです。関連記事:学会発表の準備のポイントを解説|ポスター作成のコツも論文投稿とは続いて、論文投稿の目的やメリットなどを具体的に解説します。論文投稿の目的まず論文投稿の目的は、研究成果を自分の業績として記録に残すことです。研究の集大成ともいえます。論文に残して学術雑誌に掲載することで、第三者の誰がみても、自分の研究内容や研究成果を判断できるようにします。論文を残さないと、研究内容や研究者としての経歴などがわかりづらくなってしまいます。また、論文を投稿して学術雑誌に掲載されることで、世界中の人たちが研究成果を知ることができ、貴重な共有財産となります。他の研究者たちはその内容を引用しながら新たな研究に注力できます。今まで先人たちが積み重ねてきた研究成果に自分の成果も加え、それを土台に新たな研究が発展するように貢献する。これも論文投稿の重要な目的です。論文投稿のメリット論文を発表するメリットの1つは、査読者からしっかりとフィードバックをもらえる点です。学会の発表では発表に制限時間が設けられているため、参加者にはどうしても要点のみを確認してもらうことになります。その点論文なら、制限時間はなく査読者の方にも時間をかけてゆっくり確認してもらえるので、より深く学術的な側面からみたフィードバックがもらえる可能性があります。また論理的思考が身に付きやすいのも利点です。論文は、学会発表よりもさらに論理構成を考慮して長文にまとめる力が求められるもの。研究に関するさまざまな情報を整理して、序論から考察まで筋が通るように構成して執筆します。論文を書くことで、自然とロジカルに文章をまとめる力が鍛えられます。また論文投稿は、自分の研究成果を残し、研究者として評価される要素になります。学会発表は1回のみのため、基本的にその学会の参加者だけが研究内容を知ることができます。しかし論文として学術雑誌に載ることで、学会の参加者以外にも世界中の人たちに広く自分の研究成果を知ってもらえるので、自分の評価につながりやすくなるでしょう。関連記事:査読の書き方を解説|論文の査読をチェックする際のポイント論文投稿のポイント論文投稿のポイントは、自分の論文が適している学術雑誌(ジャーナル)を選んで論文投稿することです。学術雑誌は、研究活動を行う研究者が論文を投稿し、研究成果を残すための刊行誌です。学術雑誌によって専門分野は異なり、領域ごとの専門の学術雑誌が刊行されています。例えば医療系でも、循環器系や泌尿器系、心臓系などに分かれています。まずは自分の研究が該当する領域と、その領域の学術雑誌を調べましょう。適切な学術雑誌を見つけたらそこに論文を投稿します。論文投稿の注意点論文投稿で注意すべきは二重投稿をしないことです。論文の二重投稿とは、同じ論文を複数の学術雑誌に同時に投稿することです。二重投稿してしまうと、まったく同じ論文を異なる学術雑誌で重複して出版してしまうことになるので、基本的には禁止されています。不必要な査読工数の増加にもつながります。もう1つ注意すべきなのが、自己剽窃(ひょうせつ)をしないことです。自己剽窃は自己盗用ともよばれます。自己剽窃とは、すでに提出や出版済みの文書の一部を、引用の記載なしにそのまま新しい文書で流用することです。過去の自分の文書内で使用した文章、図版、写真、グラフなど、どれを流用しても自己剽窃となります。引用記載なしに流用して、あたかも今回初めて公表したデータのように受け取られてしまうのがNGポイントです。二重投稿や自己剽窃にみなされないようにするには、新規性の明記が重要です。先行論文から新たな知見や発見が追加されていれば、同一の論文とはみなされずに二重投稿や自己剽窃の扱いにはなりづらいです。さらに、もし自分が他で書いた先行論文に今回の論文と類似する箇所があれば、先行論文を参考文献として挙げたうえで、今回の論文との相違点を明記しましょう。例えば、先行論文を発表した際にはできなかった解析が、あとで可能になることもありえます。その際は、先行論文を参考文献として記載したうえで、新しい解析結果の内容を明記し、新規性をアピールしましょう。関連記事:論文の盗用(剽窃)とは?チェックツールや防ぐための方法を解説「らくらくカンファレンス」で有意義な学会発表をサポート学会発表と論文投稿は同じ発表でも目的やメリットが異なります。自分の研究の状況から適したほうを判断して、有意義な発表の場にしましょう。学会の発表をスムーズに行うのにおすすめなのが「らくらくカンファレンス」です。発表ごとにコメント機能やビデオ通話機能があり、他の参加者と楽に交流や意見交換ができます。要旨や発表検索もしやすく、気になるキーワードで検索して興味のありそうな発表にリーチしやすいのもポイントです。より充実した学会発表のために、ぜひらくらくカンファレンスをチェックしてみてください。詳しくはこちら▼らくらくカンファレンス|学会発表で双方向性のあるコミュニケーションを叶える学会開催システム