査読とは、学術雑誌(ジャーナル)に論文を掲載するために欠かせない作業です。査読を依頼されたら、どのようなことに気を付ければ良いのでしょうか?またコメントはどのように記述すればわかりやすいのでしょうか。今回は、査読する際のポイントや、コメントの書き方を解説します。査読(ピア・レビュー)とは?「査読(さどく)」とは、研究者が論文を学術雑誌(ジャーナル)に投稿する際に、第三者が論文内容を精読して掲載の可否を判定することです。英語で「peer review(ピア・レビュー)」ともよばれます。査読を行う第三者は「査読者」とよばれ、その学術雑誌の分野の専門家や先生などが任されます。1人だけではなく数人で査読を行うこともあります。査読者は、投稿された論文を細部まで読み込み、学術雑誌への掲載がふさわしいかを判断します。掲載を判断するだけではなく、その判断に至った理由や良かった点などもコメントで残さなくてはいけません。コメントの書き方について詳しくは後述します。論文の投稿については下記関連記事も参考にしてください。関連記事:学会発表と論文投稿の違いとは|それぞれのポイントやメリットを解説査読がなぜ必要なのか査読を行う理由はいくつかありますが、大きな理由は論文のクオリティや学術雑誌の信頼性を保つことです。学術雑誌に投稿された論文を査読しないと、修正箇所がある論文や新規性がない論文などもそのまま掲載される可能性があり、学術雑誌の信頼性が下がってしまいます。そうならないためにも、掲載する論文は先にすべて査読でチェックをし、適切な内容とクオリティになっているかを確認します。修正すれば掲載可能になる場合は、その修正条件をコメントで指摘し、掲載できる論文になるように導きます。さらに査読者という第三者の立場からのチェックや見解を加えることで、論文の著者である研究者の教育となり、研究者全体の水準を高めていく意味もあります。査読の方式査読には、論文の著者と査読者の開示の有無によって、主に3つの方式があります。学術雑誌によって、最初から査読方式が指定されているものもあれば、論文の著者が査読方式の希望を出せることもあるようです。査読の方式の種類をそれぞれ解説します。シングルブラインドの査読シングルブラインドとは、論文の著者には誰が査読するか知らせない方法です。反対に査読者には、誰が書いた論文なのかが知らされます。査読者を開示しないのは、査読プロセスの客観性を保つためです。査読者は著者に関する情報を集めたうえで査読できるので、より論文内容が理解しやすくなります。一方で、著者に対する個人的偏見や先入観が必ずしもゼロであるとは言い切れません。ダブルブラインドの査読ダブルブラインドでは、論文の著者も査読者も、お互いに誰かは知りません。査読者は誰が書いた論文か知らない状態で査読を行うので、著者に対する先入観なく、純粋に論文内容に対する審査がしやすくなります。ダブルブラインドは、「Anonymous Peer Review(匿名査読)」とよばれることもあります。オープンピアレビューの査読オープンピアレビューとは、ダブルブラインドの反対で、論文の著者・査読者ともに、お互いが誰か知っている状態の査読方法です。透明性が高い方法なので、最近ではこのオープンピアレビューを推奨する学術雑誌も増えているようです。ただし、査読者にとっては自分が査読したことが著者にわかってしまうので、コメントの内容を抑えたり、批判的な内容は控えたりする可能性もあります。査読のポイント査読を任されたら、どのような点に気を付ければ良いのでしょうか。査読者として気を付けるべきポイントをいくつか解説します。利益相反(COI)がある場合は査読を断る利益相反(りえきそうはん)につながりそうな場合は、査読を依頼されても断りましょう。利益相反とは、英語で「COI(conflict of interest)」といい、ある行為が一方にとって利益になると同時に、他方にとっては不利益になることです。例えば、査読を依頼された論文の著者が自分の教え子・友人など親しい間柄だと、査読をしても好意的な判断につながる可能性があります。反対に相手がライバルのような間柄だと、不利益な判断になるかもしれません。このように個人的な関係性によって査読の評価が偏ってしまう可能性がある場合は、最初から査読は受けないほうが良いです。フィードバックは具体的に査読の重要な作業がコメントの記述ですが、コメントはできるだけ具体的に書くことが求められます。さらにコメントも、採録の可否に関わる重要なコメント(major comments)なのか、もしくは採録の可否には関わらない軽微な修正レベルのコメント(minor comments)なのかは、読んだ著者が明確に判断できるように書いてあげましょう。コメントの順番の詳細は後述します。論文の詳細まで目を通す査読では論文をしっかり読み込む必要があります。サッと流し読みするのではなく、文章を一文ずつ精読しましょう。論文を読み込むなかで、もし不明点や不正確な記述があったら、あとで論文を読む編集者(エディター)にも伝えておきましょう。査読内容には守秘義務がある査読者には、査読内容の守秘義務があります。査読する論文の内容は、引用部分以外はまだ世の中には出ていないものです。そのため、論文の内容を査読の時点で第三者に漏らしてはいけません。また査読の方法によっては、論文の著者は自分の論文が誰によって査読されたかを知りません。よって、自分が誰の論文を査読しているかを公表したり、論文の著者と直接連絡を取ったりするのはNGです。査読のコメントの書き方の例続いて査読のコメントをどのように書いていけば良いのか、日本語と英語の例文とともに具体的に解説します。査読のコメントは、基本的に下記の順番で記述します。学術雑誌によっては順番が異なったり、すでにフォーマットでコメントを書く場所が決まっていたりすることもあるので、その際はフォーマットに従いましょう。なお各例文はあくまでも例の一部なので、他にもさまざまな書き方があります。他の人の査読コメントも参考にしながら、自分の使いやすい表現を選びましょう。1:論文の要約例文:・この論文は~について研究されている/This study investigated~・この原稿は~について提示している/This manuscript presents~・著者は~について研究している/The authors explore~まずは論文の要約を簡潔に書きます。最初に要約文を書くことで、あとでコメントを読む編集者が論文のおおまかな内容をつかめます。また、論文の著者もこの要約文を読むことで、自分が論文で伝えたかった内容が正しく査読者に伝わったかがわかります。論文の要約文は、2、3行くらいの数行でOKです。この論文が何について研究されたものなのかを、査読者の言葉で簡潔にまとめましょう。2:論文の判定結果例文:・この論文を受理することを勧める/I recommend that it be accepted for publication・この論文は不採録にすることを勧める/I cannot recommend this article for publication要約を簡潔にまとめたあとは、論文の判定結果を書きます。学術雑誌への掲載が可能かどうかの結論になるので、ここは査読コメントのなかでも特に重要な部分です。判定は単に「採録(accept)」か「不採録(reject)」かだけではなく、「条件付き採録(revision)」という判断もあります。・採録、受理(accept):そのまま出版できる・条件付き採録、要修正(revision):一部修正すれば出版できる・不採録、掲載拒否(reject):出版できないこの「2:論文の判定結果」のパートでは、冒頭で上記3つのどの判断になったかを明記し、続けてその判断に至った理由や改善点、提案などを簡潔に続けます。理由や改善点、提案などの具体的な内容は次で触れるので、ここでは簡潔に書くだけでOKです。3:採択理由と修正条件評価を明記したあとは、その判断に至った理由と、もしあれば修正条件を具体的に記述します。▶3-1:採録(accept)の場合例文:・結果が明瞭だ/The results are clearly presented・テーマが興味深い/The topic addressed is interesting採録の場合は、なぜ採録と判断したか、また論文の良かった点や優れている点を記述しましょう。ちなみに採録の場合はコメント不要な場合もあるようです。▶3-2:条件付き採録(revision)の場合例文:・出版するには大幅な修正が必要である/It requires major revision before ready for publication条件付き採録の場合、採録にするために修正すべき条件を具体的に記述しましょう。修正条件は、できるだけ具体的に明記することが重要です。現状の論文のどの部分をどのように修正すれば採録になるのかを明記し、論文の著者が該当部分を正しく対応できるようにしないといけません。もしここの記述を曖昧にすると、論文の著者が修正対応を間違えてしまい、2回目以降の査読でさらに多くの指摘が入ってしまうこともあります。そのような事態を避けるためにも、どこを直すべきかすぐ判断できるように記述しましょう。また、「重大な修正箇所の指摘(major comments)」と、「軽微な修正箇所の指摘(minor comments)」を明確に区別して書くことも重要です。重大な修正箇所の指摘(major comments)は、研究内容の根幹に関わる重要な修正箇所です。この箇所を修正しなければ採録にはなりません。例えば研究結果からまとめた結論が飛躍しすぎているなど、論文としてそのままでは掲載できないポイントです。一方の軽微な修正箇所の指摘(minor comments)は、例えば綴りや文法のミス、誤字脱字、図版の文字が小さいなど、採録に直接は関係ないけれども、修正したほうがより良い論文になるポイントです。▶3-3:不採録(reject)の場合例文:・提示されているデータだと~について決定的ではない(説得力がない)/I don't think that the data are conclusive enough to~不採録の場合は、なぜ掲載できないのかの理由を伝えます。ここでは、採録にするための修正条件の記述は不要です。「新規性が認められない」「根拠が示されていない」など、不採録である理由だけを簡潔に書きましょう。「らくらくカンファレンス」で学会運営をスムーズに査読は、論文を学術雑誌に掲載できるかが判断されるとても重要な作業です。意味を理解しポイントを押さえて、丁寧な査読を行いましょう。研究成果の発表方法には、論文投稿の他に学会での発表もあります。学会の運営をサポートする「らくらくカンファレンス」では、学会への参加申し込みやポスター発表、参加者との交流などをスムーズに行える機能がさまざまあります。学会運営を効率化したい方は、ぜひらくらくカンファレンスをチェックしてみてください。詳しくはこちら▼らくらくカンファレンス|学会の申し込みからオンデマンド配信まで一元管理