大学の研究成果を事業化して、社会還元につなげるベンチャー企業、「大学発ベンチャー」。経済発展のためにも注目される取り組みですが、そもそも大学発ベンチャーとはどのような企業なのでしょうか?本記事では、大学発ベンチャーのメリットや現状、成功企業例などをご紹介します。「大学発ベンチャー」とは?大学発ベンチャーとは、大学と関わりが深いベンチャー企業を指します。特定非営利活動法人(NPO法人)、一般社団法人や個人事業主、海外に設立された会社も含みます。大学発ベンチャーは大学と深い関わりがあるため、大学の貴重な研究成果や技術シーズを新規事業や商品開発に活かして、ビジネスにできます。研究成果や技術シーズの活用は大企業でも行なわれていますが、大企業だと予算やスケジュールなどさまざまな制約があり、どうしても展開が難しくなることも。その点ベンチャー企業なら、比較的柔軟に展開がしやすい傾向があります。大学発ベンチャーの業種としては、技術シーズが創出されやすいIT系(アプリケーションやソフトウェア・ハードウェアなど)や、バイオ、ヘルスケア領域が多いです。ちなみに大学発ベンチャーの定義は、経済産業省が定めています。5つある大学発ベンチャーの定義について、詳しくは後述します。大学発ベンチャーのメリット一般的なベンチャー企業やスタートアップと比較した際の、大学発ベンチャーのメリットは主に2つあります。まず特筆すべきは、技術的な優位性です。前述のとおり、大学発ベンチャーは大学との関わりが深いため、特定の研究分野で有名な大学教授の協力を受けたり、充実した研究施設を使用できたりします。著名な大学教授はネームバリューや人脈があるため、他企業との連携につながりやすいのもポイントです。2つ目は、グローバル展開のしやすさです。大学発ベンチャーの新技術やシーズは海外でも通用しやすいものが多く、海外展開につながりやすいです。さらに行政の支援によって、海外展開を後押しする流れもあります。経済産業省は「J-Bridge(Japan Innovation Bridge)」を展開し、大学発ベンチャーと、アジアを中心とした海外企業との協業による新産業創出を支援しています。国内だけでは事業化のハードルが高い技術やシーズも、海外企業と協業することで実現できるかもしれません。大学発ベンチャーのリスク一方で、大学発ベンチャーならではのリスクもあります。大学教授や大学の研究室は、専門的な研究技術や知識、分析力、プレゼンスキルなどは十分に備えていますが、どうしてもビジネス面でのスキルや経験が足りないことも。もちろん教授や研究室によっては、ビジネススキルを十分に備えている場合もあります。ビジネススキルの例としては、マネジメント能力やマーケティング能力、コミュニケーション能力やリーダーシップスキルなどが挙げられます。また、開発した製品や技術が世の中に浸透するまでに時間がかかることが多く、どうしても赤字率が高くなってしまう傾向もあります。製品化率が低く売り上げが上がらないと、資金ショートなどにつながり、最悪の場合倒産してしまうリスクがあります。「大学発ベンチャー」の現状【2022年度調査】経済産業省が2023年5月に発表した「令和4年度大学発ベンチャー実態等調査」から、2022年度の大学発ベンチャーの状況を見ていきましょう。全国の大学発ベンチャーの数2022年度に在籍確認された大学発ベンチャーは3,782社でした。前年の2021年度に確認された3,305社と比較すると、477社も増加(114%)しています。企業数と増加数、ともに過去最高となりました。参照:令和4年度 大学発ベンチャー実態等調査 調査結果概要/経済産業省業種別の大学発ベンチャー数2018年度~2022年度の調査で大学発ベンチャーの数を業種別にみると、2021年度まではずっと、「バイオ・ヘルスケア・医療機器」が1位でした。参照:令和4年度 大学発ベンチャー実態等調査 調査結果概要/経済産業省しかし2022年度になると、今まで2位だった「IT(アプリケーション・ソフトウェア)」がわずかに「バイオ・ヘルスケア・医療機器」を抜き、もっとも多くなりました(「その他サービス」を除く)。定義別の大学発ベンチャー割合定義別に大学発ベンチャーの割合をみると、2017年度~2022年度の間ずっと「研究成果ベンチャー」がもっとも多く、毎年全体の半分以上を占めています。参照:令和4年度 大学発ベンチャー実態等調査 調査結果概要/経済産業省また2021年度から2022年度にかけて、「共同研究ベンチャー」と「学生ベンチャー」は少し増加しています。一方で「研究成果ベンチャー」はやや低下しています。大学発ベンチャーの定義について、詳しくは後述します。関連大学別の大学発ベンチャー数ちなみに2020~2022年度における関連大学別で大学発ベンチャー企業数を比べると、2年連続で東京大学が1位、京都大学が2位でした。1位の東京大学の2022年度の大学発ベンチャー企業数は371社で、京都大学は267社です。参照:令和4年度 大学発ベンチャー実態等調査 調査結果概要/経済産業省大学発ベンチャーの定義の種類5つ「大学発ベンチャー」の定義は、経済産業省が定めています。下記5つのうち1つ以上に当てはまると、「大学発ベンチャー」とみなされます。研究成果ベンチャー大学発ベンチャーの5つのうち、もっとも割合が多いのが「研究成果ベンチャー」です。「研究成果」の名前のとおり、大学で達成された研究成果に基づく新技術やシーズ、特許やビジネス手法を事業化するために、新たに設立されたベンチャー企業です。働いているのは博士が多いようです。共同研究ベンチャー企業創業者がもつノウハウや技術の事業化を目的に、設立5年以内に大学と共同研究などを行なったベンチャー企業です。企業設立時には大学と特段関わりがなかったとしても、設立5年以内に関わりがあれば対象になります。技術移転ベンチャー新規事業ではなく、既存事業を維持・発展させることを目的に、設立5年以内に大学から技術移転などを受けたベンチャー企業です。「技術移転」とは、独自技術をすでに保有している企業が、発展途上のベンチャー企業などに技術を提供したり、技術を指導したりすることです。こちらも、企業設立時には大学と関わりがなかった場合も対象になります。学生ベンチャー大学と深い関わりのある学生ベンチャー企業です。現役の学生が関係するもの、もしくは関係したもののみが対象となります。大学だけではなく、高等専門学校も含まれます。関連ベンチャー大学から出資を受けているなど、学生ベンチャー以外に大学と深い関わりがあるベンチャー企業です。参照:令和4年度 大学発ベンチャー実態等調査 調査結果概要/経済産業省大学発ベンチャーの成功事例最後に、実際に大学発ベンチャーとして成功している企業をいくつかご紹介します。Heartseed株式会社「大学発ベンチャー表彰2021」で文部科学大臣賞を受賞したのが、Heartseed株式会社です。同社は慶應義塾大学の研究室を利用しながら、味の素株式会社の支援のもと、iPS細胞を用いた心筋再生医療に関する研究をしています。日本の再生医療ベンチャーとして、今後の成長が期待される大学発ベンチャーです。株式会社ユーグレナ株式会社 ユーグレナは、東京大学発のベンチャー企業です。同社は2005年に世界で初めて微細藻類「ユーグレナ(ミドリムシ))の屋外大量培養に成功しました。2005年に東京大学農学部メンバーで設立した同社は、2008年からの数年間で多くの大企業と資本提携しており、大企業と大学発ベンチャーの連携、つまり産学連携の成功例ともいえます。関連記事:産学連携(産学官連携)とは?メリットや事例を解説|産学協創との違いも株式会社セルシード東京女子医科大学初ベンチャーである株式会社セルシードは、食道再生上皮シートの実用化を目指す企業です。食道再生上皮シートは、患者の口腔粘膜組織から採取した細胞から作られ、実用化されれば手術後の食道狭窄(食道の一部が狭くなること)の防止が期待できます。この基盤技術である細胞シート工学は、東京女子医科大学の名誉教授によって開発されました。Spiber株式会社慶應義塾大学発のベンチャー、Spiber(スパイバー)株式会社は、世界で初めてクモ糸の人工合成に成功しました。同社が製造する「QMONOS(クモノス)」は、クモ糸の遺伝子をもとに開発された人工繊維素材です。応用範囲が広く、環境負荷も低いことで注目を集め、大学発ベンチャー表彰特別賞も受賞しています。株式会社ツクルバ株式会社ツクルバは、中古・リノベーション住宅の流通プラットフォーム「cowcamo(カウカモ)」や、コワーキングスペース「co-ba(コーバ)」の運営などを行っています。同社の共同創業者や役員、メンバーの多くは東京工業大学出身で、同大学で学んだ建築デザインの専門知識を活かして、不動産領域やスペース運営を行っています。株式会社KAICO株式会社KAICOは、九州大学発のベンチャーです。同大学で研究されている特別なカイコが生産したタンパク質を、ワクチンや医薬品などに利用する取り組みを行っています。同大学では長年さまざまな昆虫種の保存や研究を進めており、多くの研究シーズがあります。その1つをうまく事業化した例です。大学の研究成果を大きなイノベーションにつなげる、大学発ベンチャー大学との深い関わりがあるからこそ、高い技術力や充実した研究設備、著名な教授の協力を受けられる大学発ベンチャー。今回ご紹介した特徴や成功例などを参考に、さまざまな研究成果を活かす大学発ベンチャーの活躍に注目してみてください。大学発ベンチャーの重要な財産である研究成果は、学会や論文で世の中に発表されます。学会の運営の管理なら、「らくらくカンファレンス」がおすすめです。大学発ベンチャー創業のきっかけになるかもしれない学会の運営を、システム1つでより効率的にサポートします。詳しくはこちら▼らくらくカンファレンス|学会での研究成果発表やコミュニケーションを円滑にするシステム