演題査読は学術論文の査読と何が違うか|社会福祉・教育系学会の実務から

学会大会の演題査読を初めて任されたとき、「学術論文の査読」と同じくらい厳格な審査を想像して身構える担当者は少なくありません。落選の判定基準を細かく作り込もうとして、途中で「これは本当に必要なのか」と立ち止まるケースもあります。
結論からいうと、学会大会の演題査読は、学術論文の査読とは目的も厳格さも異なるものです。本記事は、査読という行為の位置づけそのものを整理する記事です。実際に査読をどう進めるか、誰がいつ何をチェックするかという事務局の実務手順は別記事で扱うため、ここでは「そもそも何を目的とした査読なのか」という前提を押さえることに絞ります。
ここで紹介する内容は、社会福祉・教育系の学会に沿った内容です。分野によって方針が異なりますので、ご自身の学会の方針を確認の上、こちらの記事は参考としてお読みください。
「演題査読」と聞いて学術論文の査読を想像していないか
学術論文の査読は、専門の査読者(レフェリー)が研究内容そのものの学術的な妥当性・新規性を審査するプロセスです。不採択という判定も珍しくなく、審査には数週間から数か月かかることもあります。
一方、学会大会の演題(発表申込)査読は、性質が異なります。例えば社会福祉・教育系の学会の場合には、システムまたはメールで抄録(アブストラクト)を提出してもらい、学術誌の論文のような厳しい査読ではなく、倫理的配慮がされているか、形式を満たしているかなどをプログラム委員(教員)が手分けしてチェックする、というものです。
つまり、演題査読の主目的は「研究内容の学術的な優劣を判定すること」ではなく、「大会という場で発表するにあたって最低限の要件を満たしているかを確認すること」に近いといえます。この前提を取り違えると、必要以上に重い審査フローを設計してしまいます。
査読の項目が違うというより、そもそもの目的が違います。学術論文の査読は、学問的に少しでもおかしいところがあれば再査読に回したり、不採択にしたりするためのものです。一方、学会大会の演題査読は、基本的には採用するための査読です。学術誌の査読が絞り込むための関門だとすれば、学会大会の演題査読は、できるだけ多くの人に発表してもらうための、落とさないための審査だと言えます。
学会大会の演題査読は何をチェックしているのか
「倫理的配慮」「形式を満たしているか」は、具体的には次のような観点だと考えられます。
- 研究倫理上の配慮が抄録に示されているか(対象者への説明・同意、個人情報の扱いなど)
- 文字数・構成・必要項目といった、大会側が定めた形式要件を満たしているか
- 発表内容が大会の趣旨・分野から著しく外れていないか
社会福祉・教育系の学会では、学術論文の査読のように「先行研究と比べて新規性があるか」「統計手法は妥当か」といった内容面の深い審査までは踏み込まず、演題数が100件以下の規模であれば、査読という機能自体を設けず運用することもあります。演題査読が、学術的な関門というより大会運営上のチェック工程に近い位置づけであるということです。
査読するのは専門の査読者ではなくプログラム委員(教員)
もう一つの大きな違いは、査読を担う人の立場です。
学術論文の査読では、その分野の専門家であるレフェリーが個別に依頼を受けて審査にあたります。対して学会大会の演題査読は、大会の運営を担うプログラム委員(教員)が手分けしてチェックする体制が中心になります。
プログラム委員は、大会全体の進行やセッション編成にも関わっている立場です。演題ごとに外部の専門査読者を新たにアサインするのではなく、大会運営の内部にいる教員が、限られた時間の中で形式・倫理面を確認していく、という運用がとられているということです。演題査読が独立した学術審査ではなく、大会運営プロセスの一部として組み込まれていることを示しています。
査読の後にはプログラム編成が控えている
演題査読が「採否の判定だけで完結する」学術論文の査読と異なるもう一つの点は、査読の先にプログラム編成という工程が続いていることです。
演題のテーマが近いものを同じセッションにまとめつつ、座長と発表者の時間が被らないか、同じ人が別の教室で同時に発表する事態になっていないかをチェックする、という作業が査読後に控えています。
学術論文の査読は、採択されればその後の掲載作業に進むだけですが、学会大会の演題査読は、採否の判定がそのままセッション編成という次の実務工程の入力になります。査読は「終着点」ではなく、大会運営全体のなかの一工程として位置づけられている、という点も違いとして押さえておきたいところです。
査読委員・編集委員の立場から見た、この査読の位置づけ
複数の学会で査読委員・編集委員を務める研究者の立場から見ると、学会大会の演題査読と学術誌の査読は、そもそも役割が異なるものとして扱われているといえます。
学術誌の査読は、研究成果を学術コミュニティの資産として蓄積するための関門です。一方、学会大会の演題査読は、年に一度(あるいは数回)開催される大会という場に、より多くの会員が発表・参加できるようにするための運用上のフィルターという性格が強いと考えられます。両者を同じ基準で語ってしまうと、大会運営に不要な厳格さを持ち込んでしまったり、逆に必要な倫理チェックを軽視してしまったりする恐れがあります。
ここで示した内容は、社会福祉・教育系の学会での実務にもとづくものであり、すべての学会・分野に当てはまるとは限りません。分野によっては、大会発表の採否により重い審査基準を設けているケースもあります。自分たちの学会がどの程度の厳格さを求めているのかは、既存の査読の進め方や過去の運用実績を確認しておくと安心です。
実際の査読の進め方・評価項目を知りたい場合
ここまでは、演題査読という行為の位置づけ・目的の違いを中心に整理してきました。実際に「誰が」「いつ」「どのような手順で」査読を進めるかという事務局の実務フローや、査読時にどのような評価項目・採点表を使うかという設計の話は、本記事の対象外です。
査読の書き方や、論文の査読をチェックする際の観点については査読の書き方を解説|論文の査読をチェックする際のポイントで、抄録そのものの扱いについては抄録に関する記事で確認できます。査読・演題管理を含めた運営システムの選定を検討している場合は、学術集会運営システムおすすめ6選も参考にしてください。
学会大会の演題査読は、学術論文の査読と同じ土俵で扱われがちですが、目的・担い手・工程上の位置づけのいずれも異なるものです。この前提を押さえておくことで、大会運営における査読の設計を、過不足のない形で進めやすくなります。
※本記事の実務にかかわる記述は、学会事務局での実務経験と、学会運営に関する知識にもとづきます。分野や規模によって運用は異なります。
執筆者
平 由紀子
株式会社AGRI SMILE
らくらくカンファレンス カスタマーサポート・セールス担当 / Seeds-Hub コミュニティ運営
年間60件以上の学会運営に関するご相談に対応。学会DXの現場知識をもとに、研究者と企業をつなぐコミュニティ「Seeds-Hub」の運営にも携わる。