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2026/11/2

学会の情報保障・参加保障ガイド|手話通訳や託児の実務

学会の情報保障・参加保障ガイド|手話通訳や託児の実務

学会に参加したい人が、障害や育児などの事情によって参加をあきらめることがないよう、事務局側で配慮を用意する取り組みを「情報保障」「参加保障」と呼びます。手話通訳・要約筆記・託児など、何をどこまで用意すればよいかは、学会ごと・分野ごとに対応が分かれているのが実情です。

本記事では、学会における情報保障・参加保障の実務を、誰が何を手配するのかという線引きから、会場・資料の配慮、災害時の対応、法律上の位置づけまで整理します。

この記事を読むとわかること:

学会における「情報保障」「参加保障」とは何か

情報保障・参加保障とは、参加したい人が参加できない状態を解消するための配慮の総称です。発表や資料の内容を受け取れるようにする配慮(聴覚障害のある方への手話通訳・要約筆記、視覚障害のある方への資料の読み上げやデータ提供など)を情報保障、会場に来て参加できるようにする配慮(車いすで移動できる動線の確保、育児中の方への託児など)を参加保障と整理できます。たとえば歩行に障害のある方は、情報保障は必要としなくても、参加保障の対象になります。

どこまでを学会側が用意し、どこからを参加者側が手配するかという線引きは、学会が属する分野によって差があります。福祉・教育などの領域では比較的手厚い配慮の仕組みが整えられている一方、それ以外の分野では標準的な対応として定着していない場合もあります。あらかじめ「誰が何を手配するか」の基本的な考え方を事務局内で共有しておくと、前例のない依頼を受けた際の初動が早くなります。

誰が手配するのか(学会側/参加者側の線引き)

まず押さえておきたいのが、「誰が手配するものなのか」という線引きです。直感とは逆になっている場合があるため、注意が必要です。

手話通訳者は、ろうの方が各自で手配するのではなく、通常は学会側が手配し、費用も学会側が負担します。 参加者から手話通訳の依頼を受けたら、事務局側で通訳者を探して手配します。

一方、移動支援のヘルパーは参加者が各自で手配(費用負担も参加者自身)するという運用が見られます。事務局側は「ヘルパーと2名で参加する」旨を事前に把握し、受付や会場案内を準備しておきます。ヘルパーの参加費については無料とする学会が多く見られますが、学会プログラムなど参加者向けの配布物までは用意しないという運用が見られます。

線引きに迷う場合は、依頼してきた参加者本人に、どのような配慮を必要としているか、これまでの学会でどのような対応を受けてきたかを確認するのが確実です。必要な配慮は一人ひとり異なるため、事務局側の想定だけで決めると不十分な配慮になる場合があります。

手話通訳だけでは足りない場合がある(要約筆記)

「手話通訳を用意すれば聴覚障害のある参加者への配慮は十分」と考えられがちですが、実際にはそう単純ではありません。

中途失聴者や難聴者のなかには、手話を日常的なコミュニケーション手段としていない方も多くいます。 このような参加者には、手話通訳に加えて、発言内容をその場で文字にして伝える要約筆記者を用意する場合があります。手話通訳と要約筆記は対応できる参加者の層が異なるため、依頼内容を確認したうえで、どちらか一方、あるいは両方が必要かを判断します。

資料・スライドの配慮(UDフォント・色覚)

学習障害のある方や色覚に特性のある方への配慮として、読みやすさに配慮したUDフォントを使う、色覚の特性がある方でも識別しやすい配色をスライドに使う、といった決まりを設けている学会もあります。

ただし、こうした対応は福祉・教育などの領域でよく見られるものの、それ以外の分野では標準的な対応として広く定着しているわけではありません。 「資料作成の配慮をどこまで求めるか」は、学会の分野や参加者層を踏まえて事務局側で検討します。

託児コーナーの運用

育児中の参加者への配慮として、託児コーナーを用意している学会も少なくありません。

託児コーナーの運用でよく見られるのが、事前申込制・先着順という方式です。当日に確保しておける保育士の人数には限りがあるため、飛び込みでの利用は受け付けず、参加登録の段階などであらかじめ利用希望を申し込んでもらいます。

預かる子どもの年齢・月齢によって、保育士1人あたりが受け持てる子どもの人数には、国の基準で上限が定められています。保育士の人数を考えずに当日の飛び込みも含めて希望者をすべて預かるといった運用は、基準に反するおそれがあるうえ、子どもの安全にも関わるため避けてください。新たに用意する場合は、保育士の手配、利用可能な年齢・人数の上限、利用料金の有無を事前に決めておきます。

歩行に障害のある方への参加保障(会場の動線・お手洗い)

見落とされやすいのが、歩行に障害のある方(肢体不自由。車いすを使う方や、歩行用の杖を使う方など)です。手話通訳のような情報保障は必要としない一方で、会場に来て参加するための参加保障の対象になります。事務局として確認しておきたいのは、次のような点です。

ただし、建物の老朽化や立地の制約から、バリアフリー化が難しい大学もあります。こうした会場を使う場合でも、車いすの方が1人でもいれば会場を変えなければならない、というわけではありません。大会ホームページに「本会場は一部の教室がバリアフリー化に対応していません。ご了承のうえお申し込みください。ご不明な点はご相談ください」といった案内を載せておく対応が見られます。

なお、お手洗いの設置状況は、配慮を必要とする方に限らず確認しておきたい項目です。大学によっては、建物や階ごとに男女のお手洗いの数に大きな偏りがある場合があり、大会当日だけ張り紙をして男女の区分を切り替える対応も見られます。

情報保障を手厚くするほど、災害時の対応が難しくなる

配慮を手厚くするほど、地震や悪天候などでオンライン開催へ切り替える際の制約が増える、という側面もあります。たとえば、手話通訳を用意している対面のセッションを急遽オンラインに切り替える場合、手話通訳者と登壇者を同じ画面に収めて配信するための機材・配信環境が必要になります。対面開催を前提に体制を組んでいると、切り替え時に同じ水準の配慮を維持できない事態が起こり得ます。オンラインに切り替える可能性も見据えて、事前に方針を決めておくことが望ましいでしょう。災害時の対応は、別記事『学会の災害時対応と開催可否の判断』で取り上げています。

参加登録の段階で配慮の希望を確認する

参加登録の段階で配慮の希望を確認できる仕組みを用意しておくと、対応を進めやすくなります。参加登録フォームに「配慮が必要な場合はお申し出ください」という案内と自由記述欄を設けておけば、事前に手配を進めやすくなります。

配慮に関する情報は参加者のプライバシーに関わる内容を含む場合があるため、閲覧できる担当者の範囲を限定するなど、取り扱いには注意が必要です。

法律上の位置づけ(合理的配慮の義務化と「建設的対話」)

障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律(障害者差別解消法)では、行政機関等に加えて事業者に対しても、障害のある人から社会的障壁の除去を求める意思の表明があった場合に、必要かつ合理的な配慮を行うことを求めています。令和6年(2024年)4月1日の改正法施行により、事業者による合理的配慮の提供は、努力義務から法的義務へと変わりました。

この法律の「事業者」は、目的の営利・非営利、個人・法人の別を問わず、同じサービス等を反復継続する意思をもって行う者とされ、内閣府は個人事業主やボランティア活動をするグループなども例に挙げています。法人格がないことだけを理由に、学会が対象外になると考えないほうがよいでしょう。

ただし、この義務は、配慮する側(学会側)に過重な負担とならない範囲で行うものとされています。過重な負担にあたるかどうかは、費用・負担の程度や事業規模、財政状況などを考慮して個別に判断することとされ、過重な負担を理由に対応が難しいと判断した場合は、その理由を丁寧に説明することが求められています。

政府の基本方針では、障害のある人と事業者の双方が「建設的対話」を通じて相互理解を図り、代わりの方法も含めて柔軟に検討することが求められています。参加者の希望をすべてそのまま実現しなければならないわけではありません。早めに相談窓口を整え、対話を通じてできる配慮を探っていくことが大切です。

まとめ ─ 「誰が手配するか」の線引きを最初に整理する

押さえておきたいポイントは、次の3つです。

標準的な対応として定着していないからこそ、早めに体制を整えておくことが、参加者にとって選ばれる学会運営につながっていくはずです。


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執筆者

平 由紀子

株式会社AGRI SMILE
らくらくカンファレンス カスタマーサポート・セールス担当 / Seeds-Hub コミュニティ運営
年間60件以上の学会運営に関するご相談に対応。学会DXの現場知識をもとに、研究者と企業をつなぐコミュニティ「Seeds-Hub」の運営にも携わる。

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